満足度★★★★
通路を駆け抜けるひと組のカップル。無人の劇場に忍び込んだらしい。金目のものを探すはずが、はしゃいでセットのパルコニーに上がってみたりしている。
セットがゆっくりと傾き、舞台の上に倒れる。大きなセットの起こした風が客席を吹き抜ける。
そして、舞台の上で何かが動き出す。
棺桶から起き上がる男。むかしラブレターを書いたことのある少女に、ずっと時が経った今ふたたび書いた手紙を朗読している。それは、投函されない手紙。次々と棺桶から男が起き上がり、舞台上を歩き回りながら同じ手紙を輪唱のように読み続ける。
棺桶から女が起き上がる。窓の外を眺める。昔、手紙をくれた男について語り始める。棺桶から次々と女が起き上がり、舞台上を歩き回りながら輪唱のように女の言葉を繰り返す。
黒づくめの男と女が、舞台上を歩き回りながら言葉を紡ぎ、次第にそれはメロデイになる。
そういう情景。
あるいはいく組もの男女が登場し、それぞれに描かれる愛の形。
音楽と言葉。ほの暗いステージの上の黒衣の男女。劇場に忍び込んだカップルは、からっぽの劇場の客席で、目を閉じて彼らのステージをみつめる。
列車を降りて、知らない町を歩き、夕陽にそまる海岸に、腰を下ろす。
愛という言葉に、死という言葉がこれほど近いなんて。
物語というよりかつて観た幻影のような。
若いカップルは、手を取りあって劇場から去っていく。彼らの人生はここからまた始まるのかもしれない。