前世でも来世でも君は僕のことが嫌 公演情報 キュイ「前世でも来世でも君は僕のことが嫌」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    この世界は、無間地獄。


    ネタバレに長々と。

    ネタバレBOX

    暴力で殺され、悪夢で目覚める前半を観つつ、「これは無限地獄ではないか」と思った。
    終わりのない地獄の責め苦。

    その暴力の「いわれのなさ」「理不尽さ」と「連鎖」を描いているのではいか、と思ったわけだ。

    地獄に落ちて受ける責め苦には、当人にとって何らかの「罪」があり、その罪による責め苦は「罰」だ。
    しかし、この世で私(たち)が受ける「責め苦」=「暴力」(物理的な暴力とは限らない)には、「理不尽さ」がある。
    「宗教」とか「国家」とか「私怨」とか、さまざまな理由があったとしても、受ける暴力は「理不尽」である。
    「なぜ私(だけが)こんな目に」だ。

    しかし暴力を「与える側」も実は「理不尽さ」があるのではないか。
    「宗教」とか「国家」とか「私怨」とか、さまざまな理由があったとしても、暴力を振るうことには「理不尽さ」があるのではないだろうか。
    相手の息の根を止めてしまうほどの暴力に限らず。

    暴力のための暴力や、暴力の快感もあるだろう。劇中で「暴力好きではなくて」みたいな台詞があるが、好きじゃなくても「暴力に酔う」こともあるだろう。
    さらに、殺したいと思う人は、殺されたいと思う人でもあるのではないか。

    まあ、そんなことを思っていたのだが、ラスト近くになって少し印象が変わった。
    恋人と2人のシーンに戻ったときに、主人公(?)が恋人に尋ね、話をするところからだ。
    恋人の告白で明らかになる。

    そしてさらにラストシーンで、主人公(男)の悪夢は、29歳バイトの女性の悪夢であったのではないか、というシーンでそれは強まる。

    つまり、「無間地獄のループは主人公(男)だけが抱えているものではないということ」だ。
    最初の男・主人公は大学生ということで、特に背景は描かれていない。
    その男は、無間地獄のループから抜け出そうと、必死に(文字通り「必死」に)あがく。
    とにかく、どこかの局面から抜け出そうとして、人を助けたり、殺したり、とあらゆることを試してみる。

    そこから目を覚ました29歳女は、目覚めた「今、自分がいる世界」が、「悪夢の延長」=「無間地獄」であると気づいてしまったのだ。

    ありきたりな母の小言やバイトの日々、繰り返される毎日が「無間地獄」であったということ。

    彼女は悪夢の中で、母やバイト生活を他人を毒殺による排除で遠ざけようとした。バスジャックの男と同じように、自分も最後は自死するのだが。
    しかし、現実世界で彼女がとった行動は、自分だけの自殺だった。

    それは、悪夢の中の、見ず知らずの他人を巻き添えにして爆死するバスジャックや、母親やバイト先で他人を毒殺し、自分も服毒自殺する女と、何が違うのか。

    他人を巻き添えにすることは、「自分の死に意味を持たせようとする」ことなのではないか。
    「生きた証」というと、また微妙に違うのだが、そういうことではないだろうか。

    つまり、「生きた証」が欲しくないほど、彼女は絶望していたということ。
    日常の無間地獄に。

    自殺した「女」は、たぶんまた目覚めると「男・主人公」となって「1・2・3・4」のシーンを何十回も繰り返し、さらにまた女に戻って悪夢から目覚める「無間地獄」の、さらに大きなループを回るのではないだろうか。
    「閉塞感」と一言で言ってしまうことのできない「不安」が生み出す「無間地獄」。

    力の暴力よりも効いてくる。

    「無間地獄」から抜け出すのは、「何かを変えなくてはならない」のだろうが、それは「死」ではなかった。
    日常の無間地獄から抜け出すためには、「別の何か」があるのではないか。

    そのためには彼女(いや私(たち))には「何が」あるいは「誰が」必要なのだろうか、と考える。

    と、まあ、ここまでの感想は、延々誤読をしているとは思うけど……。

    前に観た『不眠普及』の感想で、「新しい才能に出会えた   ……のかもしれない。」と書いたのだが、今回もそれを感じた。台詞が面白い。
    ジエン社と通じるような感覚がある。彼らと世代が同じなのかどうかは知らないが、何が彼らをそこまで絶望させてしまうのか。わからない私は、無間地獄にいることすら気づいていないのかもしれないのだが。

    半裸の男、ファミレスの客、バスジャックを演じた中田麦平さんが、なかなかの気持ち悪さとイヤ感じが最高だった。
    ファミレスの、ウエイトレスへの気を遣いっぽい感じとか、バスジャックのノリノリの感じとか。
    29歳女などを演じた井神沙恵さんの、29歳女を演じているときの台詞回しとラストがいい。
    ハサミ女の西村由花さんの歌が怖すぎた。

    帰宅すると、さいたまで起こっていた金属バットで他人を殴り、金品を奪う強盗が逮捕された、というニュースをやっていた。

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    2017/12/20 05:59

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