かさぶた式部考 公演情報 兵庫県立ピッコロ劇団「かさぶた式部考」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    ピッコロ劇団初観劇。「かさぶた式部考」のほうも秋元松代の「常陸坊海尊」と並ぶ<不気味系>作品?と認識するのみ、初見だった。兵庫県立劇団は、実力を感じさせる安定した演技ながら、オーソドックス。藤原新平の演出は、舞台装置ともども、変化を持たせ、終幕まで引っ張っていた。休憩入り二幕2時間半。

    凄味のあるドラマだ。炭鉱事故で精神を病んだ男とその家族(母と妻)が、巡礼からはぐれた母子と出会い、やがて巡礼の本体である教団と遭遇する。念仏を聞くと「蝉が啼いている」と耳を塞いで狂乱状態になる男は、妻にべったりと頼り切っていたが、ある時母がうっかり家内で焚いた炭の匂いにパニックを起こし、家を飛び出してある場所に迷い込む。そこには泉式部の末裔を教祖に頂く教団の、その美貌の女教祖がたまたま一人で佇んでおり、一目で虜となる。
    家には帰らないと言い張る男に、教団の男が「その方は仏様である、会いたければ信心をし仏を拝みなさい」と教えられ、巡礼に加わる事になる。妻は事故以来不能になった夫に甲斐甲斐しくしながらも、別の男と不貞を働き、同居する母は自分を邪険にするように振舞う妻を快く思っていない。そして息子思いの母も、巡礼に加わることになる。
    そして後段、ガラリと変わった美術は、山深い場所を示し、外界から一定離れた空間で、教団のより生々しい内情に迫ろうとする予感を促し、胸が騒ぐ。

    ネタバレBOX

    予感のど真ん中をついて、聖地である山中、教祖女のお篭り小屋を、主人公の男が訪れ「いつものようにやってくれ」とせがむと、女が現れ、妖艶さを振りまきながらつれなく袖にするくだりが演じられる。表向き男関係の許されない女が、犬のように自分を慕う男を弄び、関係を持っているらしい様子が、木々に囲まれた山中で信憑性を帯びて迫ってくる。
    その後、教団員の目撃者が絡んで痴話喧嘩の様相を呈するが、その男と争って谷に落とされた主人公を、母が助け出した美談を称える立て看板が聖地の一角に据えられたり、目撃者(元々精神を病む)を病院行きにさせたり、秘密裏に事は運ばれる。
    このかん、谷底に落ちた主人公は一時的に正気を取り戻して「迷惑をかけて済まない」等と、まともな話を母にし、母は狂喜する。だが、その頭で男は女教祖に向かい、自分らは恋人であり、正式に交際したいと申し出るが、正気になった男は要らないと女がすげなく関係解消を言い渡すと、男は再び「蝉の声」を聴き、不確かな頭となる。
    正気の息子を見た母は、実家に戻ってその事を嫁に伝え、夫を迎えに行くよう諭す。嫁と母の関係では、母子が家を去る前、嫁の腹に子が出来たことが知れ、母は問いただす。その以前、出かけがちな嫁を見て「息子がああなった以上いつ出ていってもいい」と母が気を利かせたのに対し、「上の方はダメでも、下のほうは健康そのもの。外で男を作るなど濡れ衣」と嫁は答えていたが、嫁の懐妊を見て母は息子の状態は日々暮らしていれば判ると言い、嫁の証言を引き出す。女は決して夫と別れるつもりはない、子供がほしいのだという。事実、嫁は二人を養うために汗して働き、夫にも丁寧に接する姿があった。
    時を戻して現在、夫を失った悲しみをこぼす嫁を母は説得し、二人は山へやって来る。ところが男は元に戻っており、嫁はここでも憎まれ口を叩く。母は失望に膝を落とすが、教団の底が割れた母は決意を秘めて女教祖に談判をする。息子を翻弄せず、どうか実家に帰してやってほしい、息子にそう諭してほしい・・その代わり自分がこの場所で奉仕をする。この会話の中で息子が「元に戻った」事も女に告げると、女は答えを保留する。
    やがて女教祖を追って姿を現した男。下手に母が、上手に妻がそっと様子を見守る。まず妻が夫の様子を見て折れ、女に対し「夫を譲るから末永く面倒を見てくれ」と言い置く。が、女教祖は男に実家へ帰りなさいと諭す。男は苦悶し、女は母に「あなたがそうしろと言った結果です」と突き放し、去る。母は苦渋の顔で見送る。しかし妻は(芝居中)初めて氷解したように夫の元へ駆け寄ってかき抱き、家に帰ろうと告げる。男は失意の内に女を受け入れる。この一連のやり取りの中で男への妻の愛が浮き彫りになり、来るべき結末に森の木々が震える。
    暗転後、後日談。「母子の美談」の看板の下で火を焚いて働く母の姿があり、観光スポットとして訪れる若者はみすぼらしい老女を蔑み、看板に描かれた美しい母を賞賛してはしゃぐ・・といった世の人の浮薄さがさらりと描かれ、教団メンバーの巡礼の列が通るも、腰を屈めて働く母と視線を交えることなく、幕となる。

    精神を病んだ主人公とその妻が役にはまり、好演。母は設定年齢に届かない女優が老けメイクで臨んだが、表現力豊かにドラマの軸として劇を支えた。
    2014年上演したものの再演で東京遠征、この演目がレパートリーに選ばれた背景は判らないが、この戯曲の高いレベルでの舞台化を観ることができ、感謝。

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    2017/10/22 22:40

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