満足度★★★★
鑑賞日2017/09/15 (金)
すみだパークスタジオが騒がしかった。正面と両脇に張った黒幕がふわりと揺れたり、向こうで人が動き物が擦れる音がしたり。これが気にならないだけの役者の飛躍力。言葉遊びが小気味よく、絶妙。危うい飛び道具・若松武史のあのしゃがれ声は元々の声か? 名は聞けども実は初見のこの俳優、新生物を見るインパクトである。何だこの存在は・・!?
双子(一卵性双生児)の論理=自分が思っていることを相手も思っている・・だから「赤がよかったのに遠慮して相手に譲った」とは、自己矛盾だがそこから始まるのが人生でありドラマ。
死後の世界とも行き来するハチャメチャ騒ぎだが、10年間の昏睡状態を経て蘇った主人公(当時高校生で今オトナ)の「自分探し」が、個性的な導き手(級友や教師、家族、伯父さんなど主人公の過去と密に関わりがある)を同伴者として展開するという軸が保たれ、突拍子もない場面の転換が脈絡を超越しても空中分解しない。迷路を辿るように難解にも関わらずどこか郷愁に満ち、おかしな者たちが健気に生きるおかしみがある。そして増水した川がもたらした不可逆な運命、すなわち「死」が、はじめは生の、やがて死の顔をして現れて来る。揺らぐ地面、暗い水面。たたみ掛けるように進む時間を、視覚が必死にとどめようと稼動するのは左脳でなく、腹か、あるいは体全体だろう。全身で受け止めたこの芝居を、私は愛する。愛さざるを得ない。