満足度★★★★
濃密な70分であり、月船さららの女優としての意気込みを感じさせる一人称語りの舞台、ではあった。
江戸川乱歩の猟奇的文学の世界は、地の文の語りによって伝わってくるし、古めかしい部屋、年のいった雇われ人の風情、畸形の造形もリアルに迫っている。
それだけに、演技的に迫り切れない部分がくっきりと見えてしまう憾みはあった。
「不幸」という言葉と、それを発する本人の自覚とのギャップが、おそらく哀れみを催させるポイントであっただろうが、どうだったか。「人と違う」ことへの気づきの「途上」のぼんやり感は表現されていたが、その悲しみ、恐らくもっと物事を知ればより絶望へと近づくであろう、心情の「まだその先がある」予感が見えていたかどうか。基本的に容姿に恵まれた者が未体験とならざるを得ない「心情」の表現に、肉薄しようとした足掻きは見えたが、抜けきれてなさも残っていたのは否めない。