満足度★★★★
女優・傳田圭菜と藤木蜜によるユニット・チークパイの第1回公演を観に行った。今回は、本公演『あめの声、夏の唄。』(上演時間80分)と、スピンオフ公演『とびらの物語』(同・30分)の2本立て。脚本はどちらも加藤英雄、演出うえのやまさゆり。出演の田中淳之とはゴールデン街でのリアル関係。傳田は激バス・梁山泊・リトルシアターで観るし、リトルシアター関連としては、藤木、福田も。脚本の加藤もリトルシアター関連(それとGフォース)だし、演出のうえのやまは激バス関連。出演者や脚本・演出で、一度は観たことのある役者がこれほど多く集まっている公演は初めてであった。
さて、本公演の舞台はとあるレストラン。今は亡き父親の命日に、近親者や父親の知人達がゆかりのあるレストランに集まることが毎年恒例となっていたのだが、参加者は年々減り、今はほぼ家族だけしか集まらなくなってしまった。そんな家族の3兄弟のうち、結婚している長男一家はこの行事を今年で辞めようと言い出そうと思っている。長女は毎年連れてくる恋人が異なり、今年も去年とは別人を! 主役である次女は父親の好きだった唄を口ずさみながら1人無口で店内にいる。その3兄弟で今後の命日の集まりについて論議している最中、父親の関係者で今日遅刻している母親と会ってきたばかりという謎の男がレストランに現れる。兄弟達は「父親の隠し子では?」と疑いつつ、母親のいる近所の喫茶店に向かう中、次女だけが、その男が過去から時空移動してきた若き日の父親であることに気づく。若き父と、娘との間で交わされるつかの間の会話。男(つまり父親)も娘も、幸せを感じる一時。そして、命日にみんなが集まってくれることを喜ぶ男と、この先も集まりを続けようと決心する次女に別れの時が訪れる。
主人公である次女を演じた傳田の熱演をまず褒めるべきであろう。長男役の野村知広、長女役の藤木蜜、男(父親)役の田中惇之んもなかなか見応えの演技をしていた。長女の元恋人役・中谷中と現恋人役の石塚義高、レストランのマスター夫人役の松田かほりも良い味を出していた。
肉親、近親者が時空移動して過去や未来に行い、行った先で会いたい肉親に会い交流を深めるという内容は、なかなか見応えがある。こうした内容では、今年小説と舞台で話題の『コーヒーが冷めないうちに』があるが、そこでの主人公は時空移動する側。本作では、時空移動されて過去の人物に会うことになる現在の時空に生きる次女がメインの話。
演ずる役者だけでなく、脚本も演出も適度な質感を保っていて観やすかった。
今後のこのユニットの活動が楽しみである。
なお、スピンオフ公演は、本公演で父親そして次女が歌っていた歌にまつわる昔話を再現したもの。やる方次第では、これは凝縮版にして時間的に余裕のある本公演の中に組み込むことが出来たかもしれない。