しょうちゃんの一日 公演情報 風雷紡「しょうちゃんの一日」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     今作は狭山事件を扱っている。この事件の扱いは、極めてデリケートな問題を含み、それは当に現在の我々の生そのものに深く関与している。だから、どう表現するのかが極めて重要になってくる。社会学的な観点からすれば、この点にこそ、今作を問う意味があるといっても過言ではないほど重く深い問題なのである。この難題を漢字表記は異なるものの、“しょうちゃん”と呼ばれる二人の16歳を迎える思春期の少女の、実に微妙な心理状況を梃に交感という超常感覚を用いて繋ぎ、考え得る様々な矛盾や、対立する証言の多様な解釈を尖鋭化し過ぎることなく纏めてみせている。この点が実に上手い。(追記2017.8.22)

    ネタバレBOX


     一方、無論、部落差別のみならず更に般化した差別の在り様を役者達の仕草を通して、さらりと演じ分け、分かる者には着実に伝わるように仕組むと同時に、敗戦を経験し満州から沖縄へ移された兵士や、引揚者達の、奇跡的とも言える生存後に紡がれた人生とその家族関係を、これまた社会の因習や、弱者へのしわ寄せによって、己と親族だけは殺人事件という重大犯罪に関わりを持たぬ風を装い、剰え真の実行犯を隠し、冤罪を生む責任転嫁を行わせた社会的「実力者」の因循姑息な狡猾も描いて見せる。極めてバランスの良い作品だ。
     大道具の配置、即ち空間処理が見事で、様々なシチュエイションを演じる役者達の動きに自然な様子が見られることも特筆に値しよう。しょうちゃんを演じる女優のセーラー服姿も良く似合っている。登場する家族は全部で3家族であるが、主たるそれは2家族。そのそれぞれが、内部にちょっと事情を抱えており、殺害されたしょうちゃんの家族である日下部家の秘密こそが、この難事件の真犯人を隠すことになったのではないか? との解釈は自然な説得力を持つ。そして、捜査する側の家族・立花家の苦労をしてきた親同士の再婚の過程をさらりと描いて見せ、引揚者の特に幼い子供たちの必死な有様も簡潔に而も極めて適確に描いている点も見事である。
     無論、物語はこの二項対立のみでは終わらない。第三の家族の家長こそ、この事件の実際の黒幕ではないか? との示唆が為されているからである。己の社会的地位・権威を利用し、口先三寸で、容疑者として逮捕された者に自供させるよう、捜査担当に抜擢された元交通課巡査部長を籠絡して、冤罪を決定的にしたのみならず、日下部家の秘密にも或いは重大な関与をしていると深読みできそうでさえあるのだ。果たして真の悪人・罪人とは誰だったのだろうか? 
     バイアスを排し、得点稼ぎを焦って立件を目指すのでなく、あくまで事実に拠る実証的な積み重ねによって犯人を挙げようとした立花家家長である警部の目論見を潰したのも、この「実力者」であった。これが、この日本という社会の持つ病弊ではなかったか? そんな問題を突き付けてもくる作品である。精度の高いシナリオ、実力のある役者陣と演出・効果のタッグ。考えさせる作品に仕上がっている。

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    2017/08/17 12:33

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  • 遅くなって申し訳ありません。

    2017/08/22 06:29

    のちほど追記します。

    2017/08/17 12:34

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