ビリー・エリオット 公演情報 TBS/ホリプロ/梅田芸術劇場/WOWOW「ビリー・エリオット」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    「市民」の付くミュージカルには何度か巡り合ったが、「本格的」なミュージカルは初めて(映像で『Rent』を見た位)。本格的、の範疇が「ある」と考えている理由はあるのだがそれはともかく・・。音楽(歌)、踊り、芝居(演技)の三要素が拮抗し、相乗効果をなして一つのドラマが構築されるミュージカルでは、技術の鍛錬や稽古、つまり努力によって合格ラインに到達するという舞台裏のストーリーがあり、洗練された技術、芸に対する感動にはこの要素が不可分にある。
    今回の「ビリー・エリオット」はリトル・ダンサーという副題(原題)通り、ダンスに目覚めた少年が困難の中、その道を進むという話。イギリスの炭鉱町が舞台だ。
    この英国ミュージカルの日本版、私は全国の応募者(確か1000人位)が一年間のワークショップを経て最終的に5人が勝ち残る、との報に触れて単純に興味が湧いた。「舞台裏のストーリー」をウォッチし始め、まんまと宣伝に乗せられた訳である。
    「訓練期間」を兼ねたワークショップという手法もうまい。結果的に不合格となった子供たちも一年を無駄とは思わないに違いない。その子らやその親族関係者も一定程度観客動員に見込めるという制作上の戦術もありそうだ。

    舞台は「Rent」や映画の「WestsideStory」もそうだが社会性が高い。エネルギー政策の転換時期を迎えた炭鉱町でストライキだ何だと会社との「闘争」に明け暮れる町の人々。日本では1950年代だったがイギリスではサッチャー時代、80年代に今で言う新自由主義路線へ舵切りがなされて労働争議が燃え上がる。その報道映像が冒頭に流される。
    少年がダンスに触れ、教室の先生に見込まれていくストーリーと、炭鉱の物語が並行し、時に少年にとって障壁として立ちはだかるが、最初に流れるドラマの基調となる音楽は「闘争」の場面で労働者が機動隊と対峙して正義を問う歌だ。このモチーフが中心に据えられ、ユーモラスで多彩な場面・歌が展開する。そして披露される少年のダンス、そして「成長した(あるいは本人の夢の)ビリー」と競演するシーンには「舞台裏」のストーリーが重なる。「本格的」ミュージカルの本領が発揮される瞬間の一つでもある。だがそれだけでは「本格的」には達しない。楽曲がよくなければならない。ドラマの創造ともう一つの柱が楽曲であり、これが世界観を作る。
    ミュージカルファンは(多分)、耳が捉える抵抗しがたい甘味な音を、想定して客席に座る。演劇にも音楽が大きい役割を果たすことがあるが、それは結果論で、ミュージカルを見ようとする心は、その結果を見越しているのだ。この種の感動が、演劇の感動の一つとは言えても中心的なものだと言えるかどうか(否、と私は言うが)。
    だが、これはドラマであり、ドラマ性を濃縮した表現だ。

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    2017/08/09 08:58

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