湾岸線浜浦駅高架下4:00A.M.(土、日除ク) 公演情報 燐光群「湾岸線浜浦駅高架下4:00A.M.(土、日除ク)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

     亡くなった深津 篤史のシナリオだが、燐光群の坂手 洋二が演出。燐光群も良く使うザ・スズナリでの上演である。

    ネタバレBOX

    劇団と小屋との関係を今更とやかく言っても仏に説法の方もいらっしゃるだろうが、芝居内容と演出には、それぞれ劇団の癖というか好みというか、特性が現れ、その特性を活かせる小屋をどうしても多用することになる。小屋と劇団の相性というものがあるのである。無論、集客力の差、舞台と裏周りとの連携や使い勝手、照明や音響の効果を最大限発揮させる為の器材の充実、交通などの利便性等々。総合芸術としての演劇が要求する要素は多岐に亘り、而も質の高さを求められる。更に小屋の持つ雰囲気や、町全体の雰囲気が、芸能文化を盛り上げてくれるようなら猶更嬉しいのである。
     ところで、今作のような、大阪港湾部の荒み、心理的にも荒寥感の漂う街区のガード下を見つめ得る部屋の、恐らくは出口なしの部屋。そこには水槽に閉じ込められた真っ赤な金魚が、閉じ込められていることを知ってか知らずか遊泳している。最初、1匹だったものが、5匹に増え、更に十数匹になって1匹消える、など。数に変化がある。互いにアイドルの名で呼び合う男女の物語であるが、先ず、感じるのが何が描かれているのか分からない、という素朴な感想だろう。無論、演出もその辺りの事情が分かっているから、通常の舞台表現と朗読を組み合わせた回を何度か設けていると考えられる。
     ところで、今作、阪神淡路大震災後に書かれた物語である。作者の深津は、地震の時、京都の下宿に居て自分だけ被害を免れ、芦屋の実家が全壊、家族は無事だったものの仮設に移らざるを得ず、自分だけ難を逃れたことに後ろめたさを感じていたという。
     それかあらぬか、今作は非常に個人的な体験をコアに擁した作品ということができよう。同時にこの個人的作品は、その難解によって観る者の解釈を待っている作品でもある。即ち、作家は何を描く為に今作を書き上げたのか? 辺りが先ず最初に探究すべき対象ということになろうか。次に劇中何度も登場する”幽霊電車”とは何か? である。更に増減する金魚は何意味し、その水槽に関する登場人物たちの会話は何を示唆しているのかである。また、ガード下に蹲る革靴を履いた人物(生きているのか、遺体であるか、男か女かも判然としない存在は、何を表しているのか?)も極めて興味をそそられる対象であろう。その他、登場人物の居る部屋が、何を象徴しているのか考えると頗る面白い。例えば冥界という解釈も在り得よう。
     無論、あらゆる作品は、作品として提示され、作家から独立はしているという立場があるのは事実であり、そのような立場にも無論根拠がある。然しながら今作に於いては、作家の抱えていたという後ろめたさの内実について想像を巡らせることが、作品解釈の大きな糸口になるのではないか、と考えられる。
     また、今作の演出で極めて特徴的なことは、舞台の観客側に据え付けられた大きな板。これで観客の視野が否応なく限定される。更に舞台が、途中から急な勾配を持って下げられ、奈落まで急坂を構成していることである。奈落迄落ちているのである。如何にも坂手演出ではないか!?

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    2017/07/10 23:27

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