赦せない行為・余炎 公演情報 さんらん&トゥルースシェル・プロデュース「赦せない行為・余炎」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

     柳井 祥緒氏、森本 薫氏の作品である。柳井氏の脚本に関しては、流石と言うしかない。柳井氏の作品は花5つ☆、森本氏の作品は3つ☆全体では☆4つとした。2作品の間に休憩が10分入る。柳井氏の作品は絶対見るべし!(追記2017.6.4 02:30)

    ネタバレBOX

    どんなに才能のある作家にも出来不出来というものがあるものだが、柳井氏のシナリオに限っては、今まで拝見した総ての作品に出来の悪い、という作品が一作も無い。その中でも今作は「艶やかな骨」と共に出色の出来栄えである。こういう作品に出演する役者は幸せである。何故なら、作品が、役者を活かすからである。演じることが生きることに繋がるシナリオなのである。或る程度、シナリオが良ければ、良い役者は、シナリオを生きることができる。だが、このシナリオは、演じることが、生きることに重なる。そのような稀有なシナリオなのである。
     柳井氏のシナリオが生のシナリオであるなら、森本氏のシナリオは死のシナリオであると言えよう。書かれた時代の背景もあるのかも知れぬ。何と言っても治安維持法下の作品である。それ故に森本が敢えて死の作品を書いたのだとしたら、その才能は驚嘆すべきものであるが、シナリオ自体の出来で比較すると、柳井氏のシナリオを百点とすれば、森本氏の作品は、50点ほどか。
    では、柳井作品のどこがどのように生に繋がるのか? それは、今作の主人公、伊坂なみ女の芸術家としての生き方が、人が人としてあるべき尊厳を湛え、而もそのことが、芸術の目指すべき真の姿に重なると同時に、その精神の根底を支えるものが、徹底的に率直であろうとする姿勢であり、そのような生き様であることに起因している。アーティストは、そのような生を実践することによってのみ、プライドを維持する。そして、このプライドが、治安維持法下での戦争協力をさせなかったものの正体である。
     それに引き替え、彼女の師であった蒼穹は、表面的には戦争に加担しないというアリバイ作りをしながら、その実、特攻基地に密かに潜り込んで時流におもね、死に行く若者たちに句を書いていたのである。彼女は、それを食堂の賄婦として働きながら観ていた。
     その辺りの事情をなみ女の妹弟子、凪子との句合戦で明かしつつ、天才の持つ力の源泉と其処から生み出される、言の葉の息吹として、劇化し演じてみせるのである。じっと、物事を見つめ、深く本質を見抜いて、その本質に生命で触れ、理解し葛藤し昇華する。これら総てが舞台上で表現されるのである。深く打たれぬなどということが在り得ようか!?
     ところで、以上の内容が劇的に設えられる前提がある。それは冒頭で、なみ女が、句を止め、句集を寺に奉納するとして、彼女の親友、ヨネが、住職に話をし、住職がもう来ることになっているシーンから始まるからであり、なみ女がそのような決断をしたのは、蒼穹に葉書を出してから10日経っても返事がなければ、句界を去ると決めていたからである。凪子が師の「句会へ戻ってくれ」との伝言と共にやって来たのは11日目であり、ヨネとなみ女の関係は、或いは凪子同様なみ女を愛していたからかも知れぬというサッフォー的な意味合いも含めての女同士の三角関係であり、師の偽善となみ女とのアーティスト魂との戦いであると同時に、彼女がミューズから愛されているか否かを賭けた戦いでもあったからである。この前提の中にも生命の激しい燃焼が炎を煌めかせているのが見える。

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    2017/06/03 01:04

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