期待度♪♪♪♪
『三島由紀夫・近代能楽集』は,近代演劇を体験する前に,日本の古典に親しんだ,三島由紀夫が,戯曲で,独特の世界を残したものである。
能は,能舞台で演じられる。舞台装置らしいものはほとんどない。現実をそのまま写すとか,再現するとか,はほとんどしない。現実の外に設定された,無の空間,神仏と人間のあいだに設定された,特別な場。だから,現実の再現は,問題外で,演技は,象徴的なものになる。
という視点から,演劇世界を構築するので,近代演劇では難解になりがちな「象徴的」なる世界が軽々と表現できる。
『葵上』源氏物語・第9帖より,入院中の妻・葵,そこに,美貌の夫,若林光。六条康子は,夫のもとカノ。葵を,六条康子の霊が現れて,苦しめる。
『卒塔婆小町』は,老婆であるが,その老婆は昔小野小町であったひと。もうすぐ100歳であるから,だれももはや美しいとはいわない。しかしながら,老婆の昔話が,鹿鳴館の時代にさかのぼる。現実をこえ,遠い昔の美貌がよみがえり,思い出の中の老婆を美しいと評価してしまう。しかし,小町のことを少しでも美しいと思った男は,例外なく死んでゆく・・・