満足度★★★★
鑑賞日2017/03/04 (土) 20:00
2017.3.4(土)20:00-
センターツラで堪能。
話の筋は大変シンプルで、序盤は生の舞台で演る旨味はどこにあるのだろうと思ってしまった。
しかし、普通のドラマの中に一点アクセントとして入ってくる「携帯のバイブ音は蚊の羽音に似ている」という台詞にいろいろなニュアンスが込められており、後半になると会場内にいもしない蚊が飛び始め、物語がじわじわ深みを増した。
蚊という存在は人間のネガティブ感情に似ていると思った。ひっ捕まえて殴れない上、次から次へと湧いてくる。平手で潰したとしても、「痒み」という遺恨を残す。
一方で、現代において携帯のバイブ機能は、誰かが誰かを想っていることをなるべく控え目に知らせてくれるツールだ。それは一見して明るい出来事のように見えるが、たとえば自死によってこの世を去った人からのメッセージであったらどうだろう。人によっては、なるべくなら早く止んで欲しい蚊の羽音になるに違いない。
本作では、一人として悪意を持っていない人達がすれ違い、主人公が傷つく様子を通して、平手で抹殺されてしまう蚊のような想いを確かな重みをもって感じることができた。「蚊の重み」というと矛盾した表現だが、今日もどこかでもがいている一億二千万分の一(もしくは六十億分の一)の気持ちというのは、地球サイズで見れば軽いようで、その実は重いのだと思う。
★蛇足
金網を使った舞台美術の机と椅子が、シーンによってはハエ叩きや、線路を見下ろす歩道橋のようにも見えた。限られた条件の中での最小限の舞台美術で様々な想像を掻き立てられた。最初は机に脚が無いことの意味がよくわからなかったが、合点がいった。