満足度★★★★
家族問題告発ドラマ/ループ脱出ミステリー
真の主人公は、たまたま「そこ」に居合わせた饒舌な文筆家。だがこの男は本編においては「家族ドラマ」を単に目撃する第三者。
語り手であるこの小説家は、執筆のため編集者に紹介された交通便の悪い宿にやって来る。折りしも宿の先代主人が亡くなったその通夜の晩、方々に散っていた子らが伴侶を連れて集っているが・・・「謎」はそこに当然な顔をして父の友人を名乗る女。「ドラマ」の冒頭では、ヤケに済ましている女への追求が起きるが、各家庭の事情を承知しているらしい彼女は、問いをするりと交わしては話の矛先を相手(親族たち)に向けて埒が明かず、一旦解散。その後、兄弟同士の対話や、嫁同士の会話シーンの合間に、兄弟の一人が「女」と会話を交わすシーンがあり、この女とやり取りした者が少なからず動揺しているという話、また女が全ての相手と一対一で話をしたらしい話、だがそれは物理的に「成り立たない」という話を宿の者がしたりしている。「女は一体何者か」を主たる謎として進行するミステリーは、やがて女が何者かは「知りえない」という予感とともに、ドラマの目的は家族問題の露呈へとシフトしてくる。もっとも、それぞれの家族問題は、子を授からない責任のなすりあい問題、不倫、娘の妊娠等などと出てくるものの、これらが「一つの問題(原因)」に集約される気配はない。というより、何らかの直接的な原因が謎解かれることはない。話はもっと遠大な、形而上学的な次元にリンクする。語り手=小説家が冒頭に提示した問いである。ドラマが収束に向かう頃、その意味深長な問いが再度提示される。即ち、彼が「抜け出せない」時空のループにいること、そしてこれ(旅館で展開されたドラマ)がそこから脱するための最後の試みであること。ここで小説家はその饒舌をフルに発揮し熱弁をふるう。恐らく作者の化身であろう彼の弁舌の内容は抽象的でうまく再現も要約もできないが、名調子であった。繊細であり傍若無人にもなる「小説家」の演技によって芝居は作者の望む閉じ方で閉じる事ができたのではないだろうか。入れ子構造の処理、場面配置や転換、ラスト処理も含めて気合のこもった、「熱い芝居」だと感じた。が、本体の「ドラマ」での家族問題の一つ一つは、多くを説明していない分、背景を深く想像できもするが浅くも見えてしまう憾みあり。
この先が楽しみだ。