66号線 公演情報 早稲田大学演劇研究会「66号線」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    匿名の苛め 陰湿そのもの 花四つ星
     高校卒業3年の橋本は交通事故に遭ったショックでタイムスリップしてしまう。

    ネタバレBOX

    事故ったのは66号線。だが、彼は夢現のような死との狭間で高校の同級生に出会う。同級生は言った、お前の選ぶ道はここだ! と。橋本がタイムスリップしたのは、3年前。文化祭間近のクラス。丁度、クラスメイトの財布が失くなった事件現場である。この事件で、真犯人をAとしよう。そして何の根拠もなく疑われたのがBとしよう。そして盗難被害者をCとし、Cに同情して真犯人探しをしようとした成績優秀者をDとし、Dの親友をEとする。この事件が明るみに出たのはCの申告による。担任教師は、手際も悪く無責任で、何の根拠も証拠証明もなくBを被疑者と断定する。匿名性をベースにして飛び交うSNSやラインの影響もあり、事件は当事者たちの手を離れて肥大してゆき、遂には死者を出してしまった。
     序盤、上記の事柄をおちゃらけた表現方法で演じているのは無論、匿名性による真の悪の特定し難さを克服し切れなかった自分達へのアイロニーであると共に、何だかんだ言っても未だ権威の象徴ではある教師(為政者)の嘘に対する声なき声へと身を隠した批難であることは明らかである。
     だが、この後に続く内容が凄い。陰湿極まる苛め。即ち今作のテーマである。苛めの凄まじさについては、近年ニュースで報じられることも多い。その多くは苛めを受けた生徒が自殺した後に、アリバイ作りをする同級生、PTA、学校、加害者らのエクスキューズである。
     今作は、そうした茶番に斬り込んでいる点で着目すべき作品である。苛められているのはDである。苛めの中心はA、悪知恵の働くAは、濡れ衣を着せられたBを言いくるめて苛め実行の主体に仕立て上げ、尚且つ、体の大きいFにお前も疑われていると嘘を吹き込んで苛め仲間に加え、女子生徒も巻き込んで、Dをトイレに連れ込んで便器に顔を浸ける、打擲を繰り返す、言葉の暴力を浴びせる等々を繰り返す。Dは苛めの後やその最中に出会ったEに何度も助けを求めるがEは自分も苛めに遇うのが怖くて、Dとは関わりたくないと宣言する。こんなことの結果、DはAによって撲殺されてしまった。一方、教師がこの事件に関われなかったのには理由がある。彼は生徒の母と不倫関係にあり、その現場をAに撮影されていたのである。自分が教職を失うことを恐れて、この教師は真実に最初から目を向けなかったのである。正義感を発揮して、このいじめグループに抗議した勇気ある生徒も居たのだが、彼は殴りつけられ、初期の目的を果たすことができなかった。これが、実際に起こった事件であった。而も、Cは真犯人を知っていた。だが、彼の暴力性や悪知恵を恐れて真実を言えなかったのである。
     さて、タイムスリップした橋本は、同じクラブに属していたBと共にロックバンドで一旗揚げることを夢見ていたのだが、この事件を思い出すと、何とかしたくなって歴史の改竄に挑む。然し、矢張りDは死んでしまう。飛び降り自殺という形ではあるが。そして、Dを救えなかった無惨を抱きかかえたまま、 Bと共に部室に立ち、ガソリンを撒いて火をつける。これで完なのだが、このシーン、照明を使って燃える部屋を見せて欲しかった。BGMはジャニス・ジョップリンのCry Baby辺りで如何だろうか?

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    2016/11/08 23:59

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