フィーリアル 公演情報 発条ロールシアター「フィーリアル」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    心情の(泥棒)日記
    説明文から、くだらない出来事(犯罪ではある)に必死な男の悶々を描いた性春物語かと思っていたが、作中には文学・哲学的な言葉(せりふ)が溢れている。
    心の彷徨という観念的なものを、即物的なパンティ...その下着泥棒という気を引く内容にしている。しかし、その狙いが十分繋がるところまで伝えきれていないところが勿体無い。

    公演の中には、多くのパロディ台詞が散りばめられ可笑しさを覚える。当日パンフには、「特に目新しいこともなく、とりたてて懐かしいこともない、信念もない、根性もないけれど、ただ目の前にあるものに向かっていくような」とあったが、謙遜であろう。

    (上演時間1時間35分)

    ネタバレBOX

    舞台はいくつかのブース毎に紗幕で覆われている。場面展開に応じて照明によって役者(陰影)を映し出す。そこは、高層マンションの一室であり、スポーツジムである。

    一見不可解な展開で混乱しそうになるが、主人公にフォーカスしてみると面白可笑しさが伝わって観えてくる。男の心情を通して運命的なもの、その抗いきれない哀れと、表層として描かれるパンティ泥棒という行為にみる歓び、その哀歓を共にするような人生。

    また、元刑事と詐欺師の男2人は、普通の暮らしというよりは地べたを這いずり回るような生き方。1人は、警察という強固(規律の厳しい)な組織を退職する。もう1人は人を騙す生き方に内心不安であろうが拘束されることはない。その両者に共通するのが「自由」という言葉...その台詞に引用されたのが、サルトルの「自由と存在」の”自由という刑に処される”である。人によって捉え方が異なる抽象なこと。
    それを江戸時代の腰巻泥棒と現代の下着泥棒の追・逃を人物配置の逆転で宿命・関連付ける。その場面になぜか、森鴎外の「高瀬舟」の引用。さらに、西条八十の詩「帽子」...母さん、僕のあの帽子、どうしたんでしょうねえ...などの有名句を引用している。

    現実と非現実の混沌とした世界観、宿命に翻弄される人間の哀歓。また下着泥棒の生真面目さ、元警官と詐欺師のいい加減さという人物対比も面白いが...。その描き方がもう少し分かり易ければ好かった。

    最後に、チラシに「発条ロールシアターが送る、21世紀の『泥棒日記』!」とあった。この件、映画:ゴダール作品を思う。他人の映像、他人の音響、他人の言葉によって活気し引用やパロディーの手法を多用している。それゆえ「(映画)泥棒日記」と言われていたようだが、それでも評価があるのだから...。

    次回公演を楽しみにしております。

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    2016/11/05 17:22

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  • 則末チエ様

    コメントありがとうございます。
    「高瀬舟」のそういうところを描いていたんですね。自分などは安楽死、自殺幇助などベースになるテーマばかりが、どう関係しているのか気になっておりました。演劇の作り手ならではの着眼点かと思います。勉強になります。

    次回公演がますます楽しみになりました。

    2016/11/11 17:44

    ご来場とコメント、ありがとうございます。
    詳細な感想、とっても嬉しいです。

    文中に「なぜか」とあったので、余計かもしれませんが、ひとつだけ。
    高瀬舟は登場する同心が罪人の言い分をあっさり信じて同情している育ちの良さというかお人好しな部分におかしみを感じたので、刑事・木股の心情補足的な意味で入れました。主人公であるパンティ泥棒がその辺をどう解釈しこの度の事件と関連づけていたかはわかりませんが。
    あとは単純に、書き手である私の趣味を観客の皆様におすすめしただけという噂もあります。美しいですよね、高瀬舟!

    「(映画)泥棒日記」!発条ロールシアターはいつも正々堂々と人の褌で相撲を取っております。いいこと聞きました。励みになります。

    この度はご来場まことにありがとうございました。

    2016/11/11 09:11

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