劇的でなく、されどドラマチックに
乖離性同一性障害、いわゆる多重人格障害をテーマにした作品。この劇団は過去に摂食障害を扱った「しずかなごはん」も上演している。岐阜の劇団なので名古屋でもしばしば観劇したが、今回は大阪に来ていたので観劇することができた。
こういう作品にありがちな演出を極力避けたとパンフレットで作者が説明しているのだが、その一環として一人の役者が多彩な人格を演じる「役者冥利に尽きる」表現も除外し、それぞれの人格を担当する複数の役者が一人の主人公を演じる構成をとっている。この点についてはあらかじめパンフレットのキャスト欄を見て理解しておかないと戸惑うかもしれないが、読んでいなくてもすぐ気付くだろう。
とはいえ演劇が演劇である限り「劇的な」演出を完全に捨てるわけにもいかず、それなりにドラマチックな物語になっている。あまりドラマチックになりすぎれば興味本位な印象を受けるが、問題を真剣に受け止め啓発するような姿勢で作れば説教じみて詰まらなくなる。このあたりのバランスが作者の力量にかかるわけだが、本作はさすが実力派だと思わせる内容だった。