満足度★★★★
テーマも舞台も重みのある公演
毎回、難しいテーマに意欲的に挑戦し、分かりやすい舞台設定でその難解なテーマを観客の心にしみこませて涙を誘う劇団時間制作。今回のテーマは「依存」であり、それは生きる糧でもあると言うこと。
舞台となったのは、海辺にある旅館。その経営者夫婦が中心人物。夫婦ともお互い幼いときから家庭に恵まれていない環境で育ったことから、楽しい家庭を築くことがお互いの夢であり、それを実現させるために相手に依存する度合いも高まる。その夫婦に取って理想の家庭は、知的障害者の夫の妹を施設から引き取って家族生活を営むこと。しかし、実際に妹を引き取ってから、家族内で不協和音が続出、家庭に亀裂が入っていく。その結果、妻は自殺することに。その自殺の本当の意味を巡り、夫の旧友や親友、仕事で旅館に滞在している小説家と担当編集者など、周りの人間たちを巻き込んで、互いの依存を巡り心が軋んでいく課程があからさまになっていく。タイトルは、その軋んでいく依存者の群れの一人である小説家が、この夫婦の家庭に起こった依存生活の結果をバッドエンドの小説に書こうという決意を表す台詞の一節。
登場人物個々に、依存とは何であり人に取って必要なのか、どれほど重要な物なのかを観客に喚起する台詞をなにがしか吐かせる脚本はなかなか凝っている印象。特に、夫の振るまいと心の中の葛藤、そして知的障害者の妹との関係には心を揺るがされて涙させられる。また、生きる糧としての依存の対象を失ってしまった妻の喪失感というものも、観る者の心にポッカリ穴を開けたのではないだろうか。
これだけの難解テーマを扱った結末をどう持って行くのか興味があったが、夫と妹の本当の依存関係があからさまになるというか依存関係が復活するというか、そういうシーンに小説家の彼らを見詰め依存の本質を書き表そうとする決意が絡み合ったラスト処理は「こうするしか無いだろう」的なもので、最近観たこの劇団の公演のラストシーンの中では一番納得できた。
ただ、やはりテーマが難解であることが役者たちの力を最大限に引き出しても描き切れない部分があったように思う。
それと、主人公である夫役の田名瀬偉年の台詞に聴きにくいところが多々あった反面(同様のことは、小説家担当の編集者・福島栞訳の森彩香にも感じられた部分があった)、知的障害者で夫の妹役の庄野有紀と小説家役の古川奈苗の熱演が印象的であった。