満足度★★★★
ブラックコメディらしい。戯曲のうまさ。料理の難しさ。
こういう戯曲なのだな、と最後には分かる。その結果から逆算して、俳優の演技、演出はどういう形が良かったのか・・という反芻を始めている自分がいた。
俳優は、ベテランに軍配である。若手は芝居を「わかりにくく」した面が、どうしてもあった。父役は、政治家に文句を垂れるおいしい役柄でもあったが、イギリスのとある教会堂で、教会員への辛辣な皮肉をこめた演説をぶつ場面、溜飲を下げた。
あちらの芝居(アメリカとか、イギリスとか。)となると、何となくこんなイメージという刷り込みが恐らく海外ドラマ(セックスインザシティとか?)の影響であるのだろう、台詞に妙な節ができる。子供ができた事でいったん離婚したのにヨリを戻した妻が、次第にぶっ飛んだ行動へ走り、最後にはまともな感じになったりする、振れ幅の大きな役だったが、厳しいものがあった。
「狙撃」の手腕ゆえに、失業者から多くのオファーをもらう身になった夫をより多く稼がせるため、たまたま互いを殺したいと依頼してきた双方に、「相手はもっと出すと言ってる」と価格競争をさせる、そしていざ、狙撃の場に立ち会うことになった最後には、「私たち、何をやってるんだろう・・」といきなり自省モードになる。でもって、シリアスドラマ=反戦・反暴力メッセージをにじませるという無理無理な(そう処理してしまえばいかにもチープな)流れがある。
この「ブラック」をどう演出、処理するかは難しい課題だった、と思う。戯曲の面白さは伝わるし、途中も面白いので、大きな不満は残さないかもしれないが。。
この妻の取る、間もなく子を産もうとしている母(予定)としての行動が、反省する対象になるのか、なるとすればなぜか、何を想起させることで成立するのか・・そのあたりが整理され、女優は表現すべきだったのだろう。
一方若い夫のほうは、復員兵で仕事を半年探しても見つからず、就職相談所を訪れて相談員と会話をする、それが芝居の冒頭だが、軍隊では狙撃の腕に覚えがあり、相談員は妻(政治家・選挙前)の事務所での仕事をあっせんするが、やがて「戦地」での高報酬な仕事を紹介され、お払い箱になる。と同時に、彼の「腕」を見込まれて「狙撃」の仕事が舞い込んで来る。
本来戦争でしか活用できない「狙撃術」を、「殺し屋」という平時でもやれる仕事で活用する、という展開は「ブラック」だが、ブラック度をもっと効果的に印象付けられなかったか。仕事が見つからない問題は深刻だが、あっけらかんとした性格を冒頭で発揮して客から笑いをとってもいる。あれは「狙撃術」という自信から来ているものとも解釈でき、就職難の犠牲者とはイメージ的になりにくくなった。
父は脳腫瘍を患い、健忘がひどくなり、息子の狙撃術を見込んで自分を殺してくれ、と真剣に依頼されたりする。「死期」を選ぶ権利についての議論は、イギリスでは保守的な教会勢力が意識されているのかどうか分らないが、「狙撃術」が人の欲望に基づく需要に応える仕事、というネガティブな側面から、肯定的な側面が垣間見えてくる、という奇妙な瞬間も、演出によってはあり得たかも知れないが、この芝居ではそこには手が届かなかった。
息子を再び戦地に赴かせるあっ旋をした政治家に、父は談判しに行く。ここでの火花散るやり取りも、教会での演説に並んで、痛快だ。このあたりが作家の本領なのだろう。
夫と妻、相談員とその妻(政治家)、父とその妻、3組の夫婦がそれぞれの世代の典型的なモデルを体現させてもいるようで、人物の数も間違えようなく分かりやすい。・・日本の世情に即して書かれた、こういう作品を見たい欲求がもたげる。