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ハンダラ(10492)
満足度
★★★
作品の要求するものを描くべき
まだ、勉強と思索が必要。(追記2016.5.22 01:56)
ネタバレBOX
先ず、この作家の日本語についてだが、助詞の使い方がめちゃくちゃ。フライヤーに印刷された細かい文字を苦労して読んでみたがもう少し日本語を勉強した方が良い。言葉が不正確だから、役者の滑舌が悪く聞こえる。更に、余計者という言葉の正確に意味する所が、作品の中に無い。これは、言葉そのものが正確に理解できていない為に、作家の内部に哲学が成立していないからである。サルトルが、何故、実存主義を選んだか? 彼が余計者という意識に悩んだからだ、そう自分は考えている。余計者と自己認識する以上、主体は、社会の埒外に在るか、少なくともそれに非常に近いレベルに在る。そして、その次元とは、狂気との境界領域でもあろう。20世紀構造主義哲学を代表するフーコーの定義では、狂気とは純粋な錯誤である。自分如きの認識とフーコーの定義を同列視するのは僭越であるが、自分の考えを述べさせてもらう。余計者は、純粋錯誤の境界領域にその精神を置く者である。従って、自分が定義するレベルでの余計者は今作には登場しない。どんなにありきたりの人間にでも、近いとイメージされそうなのは、引き籠りの息子だが、彼の主張も単なるモラトリアム人間のそれで極めて陳腐。他の出演者たちが、人が殺されるシーンの度に呟いているフレーズも総てモラトリアム人間の発しそうなフレーズで、思考のレベルが総て同じ。キャラの立ちようがない。社会階層の底辺を生きて来た、楓一家の挿話が、唯一その悲劇性に於いて異相を為しているわけだが、楓自身は妹を救うミッションを抱えて居る為に余計者という設定には当てはまるまい。楓が観客の目の前で余計者として屹立する為には、妹を娼婦に仕立て「母」と信じさせて育てた仇である青木を殺した後、状況を正確に理解できない妹を殺してこそその資格を得ると知るべきだろう。ちょっと説明しておくと、兄が、彼女が母だと思っている人間を殺したとき、妹は、その死を(認識できずにいるわけだが、兄の説明で漸く死んだということを理解した彼女には兄が認識できない。乳飲み子だった彼女が結果的には、仇である青木に引き取られて育てられ、いきなり17年後の兄を初めて見て分かる訳もない。だが、自殺した父母との約束を己のミッションと信じて多くの人間を殺害してきた楓にとっては、この時点で初めて、自らが余計者であるという実感を抱くことになる訳だ。そのショックで妹を殺害することになって悲劇が完結するというのが、普遍性に近い展開なのではないか? こういって悪ければ、作品の要請に近いと信じる。作家にはこのことを自らが書ける程度のリアルな観察眼が必要である。残念乍ら、作・演出は極めて甘い。
筋の展開にも工夫が欲しい。ほぼ時系列に沿った展開だが、観客の想像力を信じて展開の仕方を入れ替え、エッジの立った筋立てにした方が、同じ内容でも映えるだろう。この辺り作・演出は同一人がやっているのだから視座さえキチンとすればできるハズ。頑張って欲しい所だ。また、舞台大道具、予算が許すのであれば使用頻度の低い下手側は階段を取っ払ったりしたうえで、もう一つか二つ、簡単な部屋を作ってもいいし、現状のままであればマンションの部屋などということにしたりして、科白でキチンと説明をつけるのも良かろう。間取りが同じで、以上指摘したようなノウハウなしに風俗店も和馬兄妹宅も土井親子宅も楓一家宅まで全部同じ部屋を使いまわす。これでは芸に乏しい。何より観客に分かり難い。
こういう、本来言外で分からせるべき部分は、キチンと作って観客に過不足なく理解させ、シナリオの表す劇的なものや登場人物の心理の掘り下げを更に深く訴えて欲しいのだ。
良かった点も挙げておこう。観客席の椅子は間隔を充分とった上で半身ずらしに置かれており、非常に舞台が観易い。この配慮は有難かった。
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2016/05/20 12:59
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