AQUA 公演情報 メガバックスコレクション「AQUA」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    小出しにする狂気
    巧みにちりばめられた小さな伏線が見事。
    所々で小出しにする狂気が絶大な効果をもたらしている。
    それによって最初から最後まで緊張感が途切れない。
    キリマンジャロ伊藤さんはもちろん、アクア役の杉坂若菜さんも素晴らしかった。
    それにしてもこの企画で、構想・脚本共、作者の引き出しの豊かさに
    改めて驚かされる。

    ネタバレBOX

    舞台は森の中の山小屋のような家。
    ロックウェル(キリマンジャロ伊藤)は、借金の取り立てに追われていた15年前
    当時3歳のアクアを教会の前に置き去りにした。
    その後アクア(杉坂若菜)は母親に引き取られたが、その母親が病死したとの知らせに
    ロックウェルは15年ぶりで娘と再会する。
    嘘をついたことが無いという純真なアクアは、新しい家族と一緒に暮らそうという父に、
    ここで二人で暮らしたいと訴える。
    アクアの心情を尊重したロックウェルだったが、次第にアクアの感情の起伏は激しくなり
    やがて、想像を絶する真実が明らかになる…。

    冒頭間に入った女性弁護士から、この後再会する娘について説明を聞く場面で
    既に小さな疑念が生じる。
    母娘がどうやって生活していたのか、この窓の鉄格子は何のためなのか、
    弁護士は基本的な、そして肝心なことについて「さあ、解りません」としか答えない。

    再会した18歳のアクアは素直だが、幼児が喜ぶような遊びに狂喜し、
    仕事の電話をする父親を許せずスマホを床に叩きつけるような激しい一面を見せる。
    捨てられた物に執着し、カメラやビデオデッキなどを拾って来ては“直している”と言う。
    また時折過呼吸のような発作を起こして父親を驚かせる。

    アクアの生い立ちに何か大きな秘密が隠されていることは容易に想像がつくが、
    それが教会で神父から性的虐待を受け、母のもとに戻っても
    母親の心臓の具合が悪くなれば客を取って生活費を稼ぐという事実は衝撃的だ。
    この事実にたどり着くまでに少しずつアクアの異様さをチラ見せしていく手法が巧い。
    人間も時計と同じように“直してあげる”と父親の遺体にナイフを突き立てるラストまで
    彼女の狂気がエスカレートしていく様に釘付けになる。

    ロックウェルの、父親としての負い目から来るアクアに対する“甘さ”がリアル。
    弁護士の汚いやり方を見破る冷静さを持つ彼が、娘に対する疑念からは目をそらす。
    またアクアの振れ幅の大きい性格は、再会した父親への甘えに見せつつ
    実は巧妙に父親を追いつめるしたたかさを感じさせてこれも巧い。

    あまりに悲惨な人生に絶望して、頭の中で別の世界を創らなければ
    生きていけなかったのかもしれない。
    もう二度と自分を捨てることが出来ないように、母親を閉じ込めるために作った鉄格子、
    その鉄格子の中で、本当はアクア自身が、一歩も出られずにもがいていたのだ。



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    2016/05/06 22:22

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