兄弟 公演情報 劇団東演「兄弟」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    隣国
    “現代中国で最も過激な作家”と呼ばれる余華の長編小説の舞台化で
    休憩15分を挟む2時間45分の作品。
    尺の長さを感じさせないテンポの良い展開で、
    怒涛の流れに揉まれながら生きる市井の人々が生き生きと描かれている。
    良くも悪くも極端な中国という国にあって、人々もまた共産主義から爆買いへと走る。
    ただ、極端から極端へと大きく振れ、モラルをかなぐり捨てるのもまた
    “成長のエネルギー”と呼んで肯定する、その国民性にはどうしても距離を感じる。
    が、それこそがこの作品の真価なのだと思った。

    ネタバレBOX

    舞台正面奥には階段、左右には黒っぽい抽象的な壁が1枚ずつ立っている。
    時が移って資本主義流入後になると、その壁がくるりと回って裏を見せるのだが
    生活感・雑多なイメージが、一転してシャープでモダンな柄に変わり効果的だった。

    リーガンとソンガンは、親同士が再婚したため、兄弟となった。
    互いを尊敬し合って再婚した両親のもと、二人は貧しくとも仲良く暮らした。
    ところが文化大革命の波が押し寄せ、父は反革命分子として撲殺されてしまう。
    失意のうちに母も病死、兄弟はその絆を一層深めつつ成長する。
    控えめで口下手、理知的な兄ソンガン、対照的に商売上手で行動的なリーガン。
    リーガンが見初めた女リンホンが、実はソンガンを好きだったことから
    兄弟は初めてぎくしゃくする。
    そして常に弟に譲って来たソンガンが、初めて自分の気持ちを表明し、押し通して
    リンホンと結婚する。
    時は流れ、リーガンは商売が上手くいって大企業の社長となる。
    一方ソンガンは、盤石なはずの国営企業が倒れてから人生が傾いていく。
    健康を損ね、家を出て一儲けしようとするが詐欺に遭って帰るに帰れなくなってしまう。
    そのころリーガンは、ついに憧れていたリンホンを自分のものにする…。

    冒頭の悲惨さから、大河ドラマのようなイメージを持ったが
    やがて歴史は”兄弟の絆の強さの理由”を示す背景であって、テーマではないと判る。
    奔放で自己チューな弟のリーガン(南保大樹)がいかにもおおらかでのびのびしている。
    対する兄のソンガン(能登剛)は常に弟を守ろうとするが、
    結婚だけは譲らない芯の強さがあり、ラストの悲壮な決意を予感させる。
    冒頭の“8歳”という設定が若干苦しかったが、それはいつの間にか忘れて
    二人のメリハリの効いた台詞に惹き込まれた。

    「兄弟じゃないか」「兄弟なんだから」という言葉が、
    時に支えとなり、時に枷となるのも、血のつながりが無い分哀しく切ない。

    この強大で矛盾だらけの大国では、即座に対応してうまく立ち回る者が成功するのだ。
    その陰でソンガンのように実直で優しい人間は生きるのが苦しくなる。
    ラスト、ソンガンの選択は何かを変え得るだろうか。
    号泣はしても、すぐにリーガンとリンホンは自分を責めることに飽きて
    また歩き出すだろう、自分の欲望の方向へ。
    自己の欲望を他者の心情よりも優先させる瞬間に、ためらいと罪悪感が薄いことが
    違和感の理由であると思う。
    原作はその違和感を容赦なくさらけ出したからこそ自国でも物議を醸したのだろう。
    脚本・演出はそこを忠実に、ストレートに舞台化していると感じた。

    中国という国をテレビのニュースとは違い、裏返して内側深く見せてくれた舞台だった。




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    2016/04/05 03:09

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