満足度★★★★
お馴染み中津留節ににんまりしつつ、「自粛・自主規制・空気読みしない」この劇団が「日本」という集団に叩き潰されないことを祈る
今回の題材は宗教(とりわけイスラム)。これをめぐって論戦活発、言論を使っての神経戦がとある商店街の異国料理店内で展開する。
中津留氏の書くものと言えば社会的な事象を真正面から取り上げ、B級映画的とも評される意想外の展開で楽しませる(そこが賛否両論であったりする模様)。人物たちはいたって真剣で、ドラマのリアリティからすれば笑えて良いところ、鬼気迫る演技で笑う余地を与えないというギャップが、TRASHならではの独特な味の源なのだろうと思う。事実、「笑えない」現実はある。問題をあぶり出す状況設定や議論を押し進める台詞に長け、あるテーマを巡る問題群を洗いざらいテーブルに載せ切る… これはなかなか出来る技ではない、というのもリアルな現実ではそんな言葉は吐かれないからである(朝まで討論でもない限り)。中津留氏の戯曲は人がとにかく喋る。観客の気を引くようなフックを繰り出し、論点が次また次とシフトし、つい見入らせられてしまうが、当然ながら、その結果人物の行為としてはそこここに不自然さを残す。近年のお笑いに多い、笑う対象であるところの「きわもの」が突如出現したかのようになる。私などは思わず「うわ〜」と笑う。深刻な問題を考える脳と、奇妙な人間の行動を見る脳は、同時に働いている。この違和感を展開の面白さでカバーする手腕もあるし、作品によっては違和感が限りなく小さいものもあるが、今のところ私にとってはそこがTRASHの持ち味になっている。
TRASHを観る者はこの両のバランスの一方が犠牲になる可能性を承知しておくべし。この劇団の突出した価値が「現実」への即応性にある限りは。…以上は、一応(私としては)褒め言葉である。