満足度★★★★
三島作エンタテインメント
SPACによるこのタイトルが初めての「黒蜥蜴」観劇。昨年にも美輪明宏版が演られているが、SPACが選んだ演目として興味を開かれた。三島由紀夫のきめ細かな脚本と台詞は「文学調」との先入観を退け、昭和の東京を舞台のサスペンスとして面白い。とは言っても三島である。黒蜥蜴ののっけの長台詞に彼の美に対する思想がしっかり書き込まれているし、気の利いた台詞と構成に無駄がない。 中で黒蜥蜴は「人」として特異な存在だが、対峙する一方の探偵明智小五郎も彼女に「同期」し得るものを秘めている(それが二人の結びつきを形作る)。この点がドラマにおいて二人の(探偵と盗賊の)対立に加えて、「ある種の真実」を共有する二人と、それを理解し得ない俗社会との対立という、もう一つの軸を引き込んでおり、最後には後者が前面に浮かび上る。
江戸川乱歩の世界を思わせる闇色を基調にした舞台上で、達者な俳優が縦横に躍動する怪しさ満載のヤバい三島作エンタテインメント。