満足度★★★★
動物愛護のテーマは苦手だったが。
テーマがはっきりした作品だ。ステージの大きい部分を占める約40㎝高の円形の台、蹴込みは柵のデザインで、この直径3m程の円台に、冒頭、犬たちと思しい四つ這いの俳優が音楽の中悲哀たっぷりのムーブで「最後」を迎える瞬間を示す。円形の内部は檻の中を表していると知れる。図らずもここで動物たちへのシンパシーが湧く。台の奥側には開閉可能な本物の柵が置かれ、出はけはこの扉と下手の袖二つ。舞台処理はスムーズ、見やすく、感情移入も可。
きちんとした取材をもとに作られた痕跡がそこここに見え、きちんと書かれた本だとの印象を持った。テーマ内に収まった作品だとは言えるが、ここ動物愛護センター(という名の民間委託の保健所=野良犬猫を一定期間一定数保護し余剰は殺処分する)という設定が良い。彼らの日常業務、先進的な活動をしている熊本の事例、トリマーもやっている青年職員らの目的意識、ベテラン職員の苦労と悲哀、新たに採用された職員とのやりとり。猫や犬を個人的に飼う者同士の雑談などにも、動物と人間の関係が生々しく表れ、様々な角度からこのテーマを掘り下げることにより全体像がうっすらと浮かび上がる作りになっていた。
何より、主人公が慣れない部署に配属させられた「ほぼ新人」で、娘一人を養う身だがしっかり者の娘に全てを悟られている風もある。そんな素人目線の男を通して、この世界に観客を誘導し、素人ゆえの切り込みを会話でやらせていたり、台詞の構築もうまさがある。
TOKYOハンバーグは昨年のB.LET'Sとの合同公演が初で、大西氏脚本、劇団単独公演は今回が初。独自性、について語る材料はないが、終盤に登場する老犬の存在はユニークだった。厳しい現実を背負う老犬と、主人公の男との交流(といっても一方的に語っているだけだが)は、中々ないシーンではなかったろうか。
安直な涙に流れず、むごい現実を手加減なく、効果的に見せていた。この芝居には不快な現実を観客に受け入れさせる仕掛けがある。
・・主人公は犬が苦手であり、最もこの職場に「向かない」人材とも言えたのだが、老犬の姿になぜか彼は動かされる。結果的には、それは同情といったものではなく、何より彼は最も酷薄な決断を老犬に関して行なう。その時、飼い主からの虐待で脅えきった、しかも病に冒されて余命幾ばくもない老犬を、彼は抱いて語るのだ。その言葉の説得力は「犬好き」でない彼だからこそ持つ。かくして、殺処分を巡る動物たちの「ドラマ」に彼はいつしか足を踏み入れており、かつ問題を最も敏感に感じ取っていた人間だった事が露呈する。彼は、即ち私たちでもあるだろう。犬・猫の存在が連想させる「死」の現実と、向き合えない自身に、その弱さゆえに気づくのだ。