満足度★★★★
普通でない人と普通の人と
こたびも別役実テキストの妙味に浸った。名取事務所の『壊れた風景』と同じ下北沢小劇場B1にて。姉と妹の冒頭「枕」を巡るやり取りは、歴史観を巡る「争い」の要素をぎゅっと詰めたサンプルのようで笑えた(現実にある問題を思えば笑えないが)。この姉妹の永遠に続きそうな関係性・距離感は全編に貫かれる。場は玄関に通じるダイニングで呆けた父が「そろそろ茶の時間か」などと言ってそこに出てくる(母はいないらしい)。この父が、台詞で絶妙に絡む。さてある日、妹が朗読の会か何かで知り合い、本を返すように言っておいた相手の男性がやってくる。この「外来者」(そこそこ若い男性)を家の流儀によって組み敷き、ある結末を迎えるまでの顛末。
まず、二人が発語する言葉の意味は逐語的なそれとは正反対である。その事を、姉は妹について、妹は姉について「外来者」に説明するが、その行為がある狙いを持っていることは、当の二人の(他方についての)説明によって明らかになるという入れ子状態。つまり、姉は「妹はああ見えてあなたの事が満更でもない」と言い、妹は姉の事を「あなたを待っているのよ」と言う。姉妹の様相がこうなるに至り、「異性」問題がその核心に横たわるらしい、と、感づく。
別役作品は俳優に高度に的確な演技を要求する、という印象が強いが、今回も俳優が印象に残った。男(外来者)の役は姉妹に翻弄されたり、時に意志を示したりの塩梅。父親は呆けていながらある時には妙な説得力を言葉が持ってしまう演技。姉と妹はそれぞれの俳優の持ち味を生かしながら常に対をなして、言い合いにも終りがなく(どちらかが他方を征する結果は来ない)、均衡した関係を維持している微妙な加減。
姉妹が主役であるが、外来者に対してあからさまに秋波を送るのを憚られる年齢に既にある、その具合も絶妙だった。
奇妙な会話・・とは言え一応成立はしている会話・・の中に立ち上る香り(異臭?)がやはり別役戯曲のうまみで、癖になる。