シー・ザ・ライト 公演情報 もぴプロジェクト「シー・ザ・ライト」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    花五つ星
     小劇場のみならず表現する者の、位置を正確に見、正当な表現に迄高めた今後、期待すべき才能。前回の試みも、幅を広げる役を果たしているのではないか? シナリオの良さのみならず、演出の手順、役者陣のいずれ劣らぬ自然で示唆に富む表現も実によい。

    ネタバレBOX

     舞台奥、下手側、上手側黒地に白塗りの板を隙間を開けて貼り付けたセンスがとても良い。無論、下手側では。2か所の出捌け口部分が設けられているし、上手側は、窓に擬した隙間が作られているが、基本的には観客の想像力に委ねられている。舞台上で用いられる器材は、半暗転時、役者達によって準備される。当初は、学校で用いられる簡易型の机と椅子のセットが2つ。それぞれのセットに対して約45度の角度に離れて置かれている。観客席に近い下手のそれは、絵の上手い佐久間の席で、机上にはスケッチブックが載っている。斜め奥にある席は、斉藤の席。彼は、忘れ物を取りに戻ったのだが、彼女は家に戻ると余り真面目に勉強に集中できないという理由で学校に遅くまで残って課題を片付けていたのだ。が、彼が忘れ物を取りに来た時には、ちょっと席を外していた。
    彼は彼女を一目見るなり、その可愛らしさにぽ~っとなってしまう。一目ぼれだ。だが、彼女と漸く話をし、新たなスケッチが描けたら見せて貰う約束をしたにも関わらず、彼女は引っ越しを余儀なくされ、その後は会えずに居たのだった。が、大学進学後の彼にとっても、彼女は相変わらず、最愛の女であった。
     大学生時代、斉藤は、映画を作って過ごす。学生レベルでは高い評価を受け賞を取ったりもするのだが、卒業後、大学時代のメンバーを中心に立ち上げたプロ集団は鳴かず飛ばず。部外者としては客演の健一が居る。妻帯者の子持ちであるから、生活が掛かっている。
    卒業後2年が過ぎ、プロになってからは受賞歴もなく愈々、正念場だ。因みにこの集団に属するのは、斉藤の元カノの晴香、後輩で斉藤が好きでついてきた真奈美、親友の慧、客演だが、斉藤も彼の作品も好きでずっと一緒に作品を作ってきた健一に斉藤を加えた5人である。
     新作を作るに当たり会議が開かれた。その場で、斉藤の今までの路線では、弱いという結論が出、新作は、既に評価された作品を斉藤が脚本化し、それを映画化するという話になったのだが、原作では絵の才能のある者の描いた作品も映像化しなければ作品として、どうしても傷になるという判断が出た。然し、5人の中にそんなに絵の上手な者は一人も居ない。困っている時、事務所に野菜を納入している業者がやって来た。若い女性である。それは、何と他人の魂を奮わせる絵の描ける佐久間であった。斉藤が彼女に気付き、自らの名を明かすと彼女も彼を覚えていた。映画制作を手伝ってくれることになって、彼女はヒロインに抜擢される。初めて参加する世界で新人だという意識を持つ佐久間は、献身的に雑務もこなし、応募することが決まったコンクールに向けてタイトなスケジュールを精力的にこなした。然し、無理が祟って倒れてしまう。彼女の心臓には欠陥があったのだ。幸い、買い物に出た彼女の帰りが遅いので様子を見に行った仲間が彼女の倒れているのを発見、至急救急車で病院へ運び命に別状はなかったのだが、その後、彼女は入院生活を送ることになる。この間、残ったメンバーの間では斉藤を中心とした女たちの嫉妬が渦巻く。無論、元カノの晴香は、最も敏感に反応した。自分と付き合っていた間も、好きなのかどうか分からないような彼の態度の背景に佐久間が在ったことを感じ取っていたのである。助監督役になっているしっかり者の真奈美にした所で、抑えてはいるものの、嫉妬の焔が燃え上がっていることに変わりはない。
     同時期、妻帯者で2歳になった娘を持つ健一の“遊びせむとや生まれけむ”という表現者の理想と、生活を守らなければならない現実の軋みも斉藤への指弾に繋がる。親友で冷静沈着な慧の優柔不断も重なる。
     追い詰められた斉藤は、ちらっと聞いたリストカットの話を思い出し、自ら試してみようかとカッターを取り出すが、すんでの所で断念。そこで、この所問題Mになっていたラストシーンのヒントを得て科白を書くことができた。無論、この時点で作者としてのしっかりした手応えがあったのである。彼は早速原稿化し上演へ向けてハードルを越える。大事なことは、悩み悩んだ作家が宇宙全体にたった独りで向き合うような孤独に耐えて先に進み得たということである。その為に彼自身が認識を新たにした。そして、作品を自立化した。だから、燃えカスになった。その彼に受賞発表日の2分前、連絡が入った。佐久間の訃報であった。ラストシーンで斉藤はカッターで腕を切る。死亡率5%とされたその行為に彼は遂に踏み込んだ。少なくとも踏み込むことによって不合理・不条理の側に自らの生を置くことを選んだのだ。若い才能がこのように痛々しいが、表現する者として正しい選択をしたことにエールを送らない恥知らずが居るだろうか? 居るとすれば、そのような連中は表現する者の名に値しない。 

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    2015/10/29 03:09

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