満足度★★★★★
劇団時間制作:「吐き気がするほどに」
先週の土曜日、高円寺・明石スタジオで、永井 李奈さんが出演されている劇団時間制作第8回公演:「吐き気がするほどに」を観て参りました。
「吐き気がするほどに」。このインパクトのあるタイトルからどんな舞台なのか?重くシリアスな舞台なんじゃと思う方もいると思いますが、内容はとてもシンプル。
一言で言うと、「今の時代の若者にとって夢とは」何だろう?夢と仕事のお話しです。
俳優養成学校で同期だった3人の売れたいと思っている俳優と女優が中心になって織り成されて行く舞台。
3人の中の河崎良侑さんの、何をしてでも売れようとする遼は、オーディションに受かったのをきっかけに、アイドル俳優として人気を博して行くが、そこから落ちたくない一心で、事務所の社長に誘われるまま、手を出してはいけないものに手を出してしまい、その事に後ろめたさを感じつつも、夢を叶えるために売れたいと思ったことが、いつし売れる事が目的になって、見失って行く自分の不甲斐なさに葛藤し、もがく姿が切ない。
渡辺ありささんの未来の、売れるため、チャンスを掴むためファンを裏切り、自分の心身を傷つける選択をした結果、その事で、葛藤と裏切ってしまった自分の弱さと後悔に押し潰され、夢を喪わざるを得なかった苦しさに胸が痛くなった。
倉富尚人さんの義隆の、唯一、芝居が好きという初心のまま、ファンを裏切るようなことも、誤った選択をすることもないけれど、オーディションに落ち続け、売れて行く二人を見ながら、先の見えない状態に焦りと悔しさを感じ葛藤し、悶えているのに、売れた二人からは逃げていると責められ夢と現実、先が見えない夢の行く末に、吐き気がするほどの不安を抱えていながらもなお、芝居が好きで堪らず、夢を諦めきれず、その吐き気を飲み下しても追い続けて行こうとする姿に堪えきれず、涙が溢れた。
宮本愛さんのさやかは、持つ夢が無いことに諦めと怒りと焦りと不安と悔しさを抱えている女子高生。今時の女子高生と括られてしまうことに嫌悪と悔しさを持っているのがピリピリと皮膚に伝わってくる。今の自分の思いを上手く言葉に興味が出来ないことを、何も知らない大人たちは、夢を持てだの、夢を探せだのとしたり顔で説教することに苛立ち、そう言う自分達はどうなんだという怒りと、そう言われる今の自分の状態に一番、不甲斐なくも悔しい、自身に対する腹立たしさをもて余し、心のなかにくすぶり続けるマグマを感じさせた。
松 和樹さんの亮太は、どんなことがあっても、未来を応援し続けようとし、誰よりも人を思いやり、人の気持ちが解ってそっと寄り添える人。
永井 李奈さんの亜紀は、二次元の男性にハマっているのがちょっと残念なバイト先の店長。でも、誰よりも3人の事を思い、時に厳しく、時に温かく励まし、さやかや元ニートで中々上手く接客出来ない彩子など、他の店では受け入れられなかっただろう人間たちを無条件で受け入れ、叱るべきは叱り、温かく包み込みながら、時に突っ込まれながら、見守る懐の広い店長亜紀でした。
生きて行く中で、誰もが経験し、感じ、考える、仕事とは?夢とは?夢と現実、挫折と葛藤、夢を持ったが故の残酷さと夢を持てない故の虚しさと息苦しさ。
一度諦め手放したものは戻ってこない。だからこそ、中々諦めきれずに、後戻りが出来なくなり、追い詰められて行く人たちを描いた舞台だけれど、このタイトルとは裏腹に、実に爽やかに、笑いどころもふんだんにありながら、しっかりと問いかけ考えさせ、最後はホロリと泣ける。
清濁あわせ飲み、込み上げて来る吐き気がするほどの不安を飲み下してもなお、夢を追い続け叶えようと進むことを選ぶことの強さに、勇気と元気を貰えた いい舞台でした。
文:麻美 雪