満足度★★★★
アクリルケースが醸し出す村上春樹
村上春樹の名作を蜷川幸雄演出で舞台化した「海辺のカフカ」。ワールドツアーの凱旋で、蜷川さんの地元で公演中だ。
村上春樹の世界観をどう目の前に現出させるのか。ハルキストでなくても、ここが最大の注目点。蜷川さんはほかの舞台でも時々使う、アクリル板の透明な箱を使って、少年カフカの旅、高松の私立図書館、猫殺し、ホシノ君などを同時多発的に描いて見せた。
この物語のポイントとなる図書館の佐伯さんを演じたのは宮沢りえ。カフカに抜擢された古畑新之が若干頼りないところをカバーして、女神のような存在で舞台に君臨した。図書館の司書・大島を演じた藤木直人もなかなかのできばえだ。力強くあり、繊細でもあり、色気すら醸し出す難しい役を堂々とこなしているのは見事だった。
原作を読んでいて観る人と読まずにいきなり観る人では、物語の理解度に相当差が出たのではないかと危惧する。でも、そんなことは関係ないのかもしれない。この舞台のおもしろさは、物語の理解度ではなく、村上ワールドを彩るメタファーを、そのまま感じ取ればよいのだから。