満足度★★★★★
装置として、また精神的も観客を巻き込む演目
初日を観た。先月末に雷ストレンジャーズで観た別の演目と同じイプセン作品。非常によかった。実力者ばかりを集めた演者陣は盤石にして揺るがない。そして観客にストレスを強くかけても描ききる「大衆の愚かさ」を前に出した構成と演出。特にこの「愚かさの表現」が秀逸。先月腑に落ちなかった箇所が本作を観て収まった。いまさらながら本作が「誠実だが頭の足りない主人公による喜劇体裁の作品」であったとに気づく。(寅さんやチャップリンと同じね) ただ重要なのは、主人公を「笑い者」にすることで「釣られて笑う観客」を装置と演出の一部として劇中へ強制的に連結しているところだ。舞台は四方が客席の所謂囲み舞台。嫌でもゲラゲラ笑う客の顔が目に入る。つまりはそれが劇中で指摘している「考えもせず迎合する大衆の間抜け面そのもの」というつくりである。まあ構成も客にとっては「参加するつもりの全くない政治集会にいつの間にか参加してしまっている」という体でもあるし。センシティブな観客は悪意を感じるだろう。しかしこの施策は原作の主題とは合致している。
「愚かな大衆」も板の上に乗っているだけならよいが板の外へはみ出すというと観る者の嫌悪感は激高となる。貞子がテレビの中から出てきちゃうようなものだ。素晴らしい演出(装置?客席配置?)である。