明日、戦場に行く 公演情報 非戦を選ぶ演劇人の会「明日、戦場に行く」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    考え抜き、語り切る言葉の力。
    ’03年対イラク戦争を契機に結成された非戦を選ぶ演劇人の会がしぶとく続けている<オリジナル>テキストのリーディング。昨年に続いて観劇した。夏には「平和」をテーマにした公演やリーディング企画が多くみられるが、それらと一線を画するのは毎年新作が出されている点だ。その時どきの喫緊の問題を取り上げた脚本が提供されてきたという事だろう。
     俳優の力量の総和、台本こそ持っていてもアクティブで、本を持つ手がもどかしいというように、感情優位に演じていた。笑い所もあってよく出来た本だった。

    ネタバレBOX

    毎年のリーディングがここまで続いた背景を考えるに、思えばここ十余年、穏やかな春を迎えたというような記憶がない。90年代末の金融危機当時、既に南米では構造改革(規制緩和)で外国資本が国内市場を荒らし、「失われた10年」と呼ばれたアルゼンチンの露骨な事例を筆頭に、新自由主義の影は日本の将来を暗示していたというのに、小泉圧勝で郵政ばかりか労働も規制緩和の手が入った結果、格差拡大と貧困の放置(自己責任論の横行)と、「食い物にされる」条件整備を着々と進めつつある現在まで、下落の一途だ。
     南米の事例をみて、「先のことをあまり考えない(あまり頭を使わない)民族だからな‥」と、やや偏見でもって嘆かわしくも「自業自得だ」と、半ば他人事として眺めていたものだが、この日本が‥頭の良いはずの?日本が、同じ進路を辿っているというのはどういう事だ? 
     強い相手に媚びへつらう事で「身の安全」を確保する、という姿勢を為政者が本当に正しい態度だと信じているのかいないのか知らないが、先頃衆院を通されてしまった「安保法制」はその成れの果てだ。このあと参院での審議、また参院選挙、法案の違憲審査、それらをかわした後どう既成事実が作られて行くのか‥、あるいは攻撃の口実を与えるテロが先方から飛び込んでくるのか‥。
     息子が自衛隊入隊を志願した‥そこから始まるこのドラマは、様々な問題群に目配りし、エピソードを準備して人物に語らせ、曖昧さを残さない徹底した理論武装を構築した「主張」であると同時に、それらが息子を戦争に奪われたくない母の懸念と執念に動機づけられている事により、深い人間ドラマになっていた。
     多岐にわたるエピソードの中で最後に紹介される元日本軍兵士の証言が印象深い。南方の戦線で無為な戦争の現実を目の当たりにした軍人の心の内がありありと想像されるくだりだ。それは生還した軍人仲間の集いの場で、新たに発布された憲法が紹介された時のこと。前文、そして九条に至って、全員が涙を流し、それ以上読み進める事ができなかった。死した多くの戦友の顔が、そのとき瞼を過ったのに違いない。この崇高な宣言が人類に向けて発せられた今日のためにこそ、彼らは死んでいったのだと、納得したのだろう。
     売国奴が世に憚り、真の愛国者が冷や飯を食う。そんな社会がやって来た時、まともでいるための知と、それを受け止める感情のありようだけが武器になるかも知れない。このリーディング体験は、その武器を獲得する時間であったと言って決して誇張ではない。

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    2015/07/27 03:15

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