玉子物語 公演情報 Q「玉子物語」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    表現の幅が広がった?/約95分
    生き物としての人間の営為を中二病的ペシミズムでもって嘲笑うような作風が持ち味だったこの団体。
    でも、作・演出家が思春期から日々遠ざかっているせいなのか、本作では中二病的幼さがいくぶん和らぎ、表現が成熟、その表れとして表現の幅が広がっている印象を受けた。
    長々と独白を続ける役者勢が作・演出家の思いの丈を代弁しているかのような私演劇的性格も弱まって、本作では作・演出家よりひと世代上とおぼしき女優による独白も。
    身ごもっている設定の彼女がくぐもった声を震わせながら思いつめたように妊婦の胸の内を語るくだりは、独白の内容はもとより話しぶりにも切実味があって、吸引力大。
    ひと世代上の女優が作・演出家の今現在の生(なま)の思いとは少しズレているに違いない胸の内を語るということは、中二病的ミーイズムに満ち、悪く言えば独善的でもあった従来のQの公演ではありえなかったこと。
    これは、作・演出家が年輪を重ねて成長し、“自分とは境遇の違う誰か”がどんな思いで日々を生きているかに思いを馳せ、同情する余裕を持ち始めた証なのだと好意的に解釈したい。
    これまでの公演ではあまり感じることのなかったエロティシズム(なまめかしい生気、といった意味で用いたい)が匂う場面が多かったのも、これまでは中二病的タナトスを強く打ち出してきた作・演出家が成熟した証なのだと考えたいところ。

    とはいえ、中二病的タナトスや中二病的ペシミズムもまだまだ色濃く、玉子から多方向にイメージが広がってゆく当公演でも、命の源としての「卵」よりも、食べられたり割られたりする消費財としての「玉子」のほうが強い筆圧で描かれ、タナトスやペシミズムが(タナトスの反対語としての)エロスに依然勝っている印象。
    私にはこの、タナトスとエロスが相克する様子が観ていて面白かった。

    次々生み出されてゆくイメージが統べられないまま放置されて取り留めを欠く上、過去作品よりも笑いが薄い本作に私が三つ星をつけたのは上の相克が面白かったことに加え、ネタバレに記す二点が印象深かったことによる。

    ネタバレBOX

    本作を観て最も印象深かったのは以下の二つ。

    一つめは、二階建ての舞台装置の二階部分に整然と列を成し、感情をほとんど表に出さずに黙々とテレビを観たり本を読んだり手作業に励んでいるほっかむり姿の女たちの存在。
    人間の女の姿をしていながら鶏卵を産む設定になっており、自由の小さい金網張りの小部屋で産卵を続ける彼女たちは、“産むのが仕事”のブロイラーに人間の女をなぞらえたものに違いなく、笑うのはためらわれたが、その飽くなき大人しさが可笑しくてならず、細長い小部屋に開幕から中盤過ぎまで居ずっぱりの彼女たちにたびたび目を転じてはニヤけてしまう私なのだった。

    二つめは、妊婦の独白の一節。
    「生まれてくる子供には、交尾をしたいと思わせる子になって欲しい。体に色をつけたり、高露出な服を着たりもしないのに、不思議と異性が寄ってくる、そういう子に育って欲しい」
    作品冒頭にて切々とした調子で述べられる、大筋このような意味のセリフがなぜだかとても心に響いた。

    0

    2015/07/14 09:38

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大