ウィンズロウ・ボーイ 公演情報 新国立劇場「ウィンズロウ・ボーイ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    なぜ、コメディ要素の強い味付けにしたのか
    「重くシリアスなテーマを扱いながらもウィットとユーモアに富んだ会話劇として」と、作品の紹介に書いてあったが、その「ユーモア」の部分を拡大解釈してしまったのではないか。
    その結果、この作品のテーマが薄らいでしまったように感じた。

    ネタバレBOX

    「重くシリアスなテーマを扱いながらもウィットとユーモアに富んだ会話劇として」の「ユーモア」を拡大解釈して、より「笑わせたい」と思ったのだろうか。
    必要以上にドタバタして、コメディ的な味付けをしているが、タイミング悪くどれも不発だった。

    いや、そもそもそんなに「笑い」が必要だったのだろうか。

    この物語は、海軍士官学校で学んでいた息子が、5シリング盗んだとして、退学になってしまう。
    しかし、家族への風当たりが強い中、息子の無実を信じた家族が父を中心に、息子の名誉を回復するまでの戦いを描いたものであり、そのシリアスなストーリーの中に、ふと、ユーモアが顔を出す、といった作品のはずではなかったのか。

    戯曲を書いたテレンス・ラティガンは、喜劇で有名な方らしい。
    したがって、随所に喜劇的な味付けはされている。
    戯曲を読んで、面白いところを拡大してしまったのだろうか。

    しかしそれは、やはり「日常の中」にあるちょっとしたウイットであって、大笑いさせるものではないはず。
    大笑いして、ホロッとさせるというような人情喜劇でもないし。

    あくまでも「日常」が土台にあり、そこが面白くなったり、ある出来事でぐらっと揺らいでしまう恐さがあったりで、それに立ち向かう家族の姿があるのでは。
    困難だけではつらいから。そこが、喜劇を得意とする作者の見せ所であるのだろう。
    「コメディ」が作品の土台にあるのではなく、「日常」が、だ。

    例えば、こんなシーンがある。
    娘に求婚しにボーイフレンドがやって来る。母と娘は別の間にして、対応するのは父の役割。
    ボーイフレンドと大切な会話が済んだところで、父は杖で床を叩き、別の間で控える母と娘に部屋に入ってくることを伝えるのだ。
    しかし、コメディの常套として、ボーイフレンドとの会話で気持ちを高ぶらせた父は、つい杖で床を叩いてしまう。
    観客は、その展開にほくそ笑むのだが、母と娘はなぜやって来ない。
    そして、ボーイフレンドとの会話が終わって、本当に杖で床を叩いても彼女たちはやって来ない。
    実は、2人は会話に夢中になっていて、杖の音が聞こえなかったのだった。
    という展開なのだが、そのときの父親の反応が、コメディのそれなのである。
    父は小林隆さんが演じているから、そうした反応がうまい。

    間違えて杖で床を叩いてしまったことに気が付き、別の間を見る、という反応をする。
    本当に杖で床を叩いたのにもかかわらず、2人が入ってこないことへの反応の表情がある。
    そうした反応は、コメディのそれであり、作品全体が「笑い」中心ならば、爆笑になった可能性があった。

    しかし、この作品はそうではない。
    無理に笑いを取る方向に持っていくのではなく、そこは抑えたほうが、軽いウィットやユーモアになったのではないだろうか。
    そうすることで、物語に集中できたように思える。

    「笑い」を意識しすぎて、観客はとても中途半端な気持ちに追いやられたように思う。

    また、息子と女記者が必要以上にうるさい。
    作品全体のトーンとマッチしていないように感じた。
    ドタバタの中心にはこの2人とメイドがいた。

    メイドも、コメディ的な要素が多すぎて、いかにも「笑うところ」です、な見せ方をしすぎではないか。
    メイドの設定は、少し野暮な感じで、全体的に重くなりがちなストーリーの、息抜き、あるいは救いになる要素となっているとは思う。
    しかし、全体的な変に笑いを意識しすぎているために、そうしたメイドの役割を削いでしまっているように感じた。
    とても大切なポジションのはずなのに。

    そんな感じで、前半は結構つらかった。
    やっと、前半の幕切れに、弁護士が登場することで締まってほっとした。
    前半がこんな感じのままだったら、後半を見ようかどうしようか迷ったほどだ。

    ストーリーの展開により、登場したときと役の印象が変わっていくことがお約束とはいえ、とてもいい感じではあった。

    中村まことさん、良かった。

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    2015/06/15 21:25

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