満足度★★★★
ラップ率高し。タイトルがそうだし。
3回目だか4回目だかの観賞。スポーツとはスポーツ紙、要は時事的な話題やゴシップを扱うもので、スポーツにこだわった芝居をやる団体(当初そう思ったが)ではなかった。題材を映像から引っ張って来て様々な話題を繋げたり俳優にパフォーマンスさせたりラップさせたりする。女優はサングラスを掛ける。絶えず映像が流れている。役者がこれにアテレコしたりする。ラップもする。台詞に合わせて気の利いた映像がチョイスされたりする。前々回観た時の題材は上岡龍太郎「EXテレビ」。これ確かリアルタイムで見た。煙草を吹かしながら偉そうな奴だと思ったのをありありと思い出した。この時はかなり長い喋りを主宰の金山氏がやっていた。
今回の題材はラースフォントリアー監督『ダンサー・イン・ザ・ダーク』。悲惨さの中の高潔さを歌い上げた作品。映像では他に中原俊監督『櫻の園』も扱っていた。どちらも世界観のある作品で、知る人には効果大。知らない人にも「これは‥」と見入ってしまうシーンを選び、語りやアテレコが重なると、「オフザケ」してても映像の力で不思議にメッセージが伝わって来たりする。
ラップには字幕が出る。タイトルに打っただけあって、ラップが大半を占めた。日常では繋がらなない事柄を繋げ、脳のシナプスはフル稼働する。この切り口が鋭い。今回主に動く5名の女子の存在感が多大。最初にマイクを持って毒舌を吐く、知る人ぞ知る佐々木幸子は以前別の舞台で4女優がガナリを上げる中、ガナっても耳に心地良い声が印象的であった。その風貌に滲む狂気と若干エロ(叱られるか)のキャラが今回も炸裂し、ラップの声はやはり気持ちよく、遊園地再生の牛尾との半ばレギュラーの2人の掛け合いが鋭い滑舌合戦と化して見物であった。ラップは字幕を見ずに言う。頭に入れてある。他の女優も個性が滲み出て5人の組合せは絶品と言えた。終盤で台詞や口跡が怪しくなる所もあったが、これだけやるのでもちょっとした感動である。
冒頭の毒舌は今回口コミで急増したらしい観客に当てた皮肉で、「だって、どうなの?ってレベルでしょ演劇として」と自嘲。それはその通り、と言ってしまったほうが良いかも知れない。演劇としては「亜流」、映像に頼り過ぎ、など意見はあるに違いない。が、映像とコトバをコラージュし構成した「作品」は心地良く、ゴシップ・ネタは数多く、今回は例えば曾野綾子が「差別と区別は違う」とのたまった映像をピックアップしたり、よく判らないものも含めて脳内刺激薬物がふんだんだ。個人的には『櫻の園』やハードロック(ツェッペリンとかディープパープル)に関する言及が何故かラップに織り込まれたり、懐かしさが巡る心地良さも。
で、結局全体これは何なんだ? については当分説明できそうにない。演劇である事は確かだ。スポーツ紙の無い時代、新聞代わりに芝居を公演していた時代もあったのだから。大手マスコミのニュース番組は今後ますます大本営発表機関と化す事だろう。演劇が持つメディアの機能は侮れない。