第三帝国の恐怖と貧困 公演情報 東京演劇アンサンブル「第三帝国の恐怖と貧困」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    戦争を止めるには・・・
    劇団チョコレートケーキの『熱狂』ではナチスの内部から独裁政治から戦争へ向かう話が描かれたが、

    ブレヒトによる本作は市民の生活からの戦争を描いている。

    訳者は左翼演劇の重鎮であった俳優座の故・千田是也。

    ナチスドイツの話ではあるが、いまの日本を思わせる台詞がたくさんあって身につまされた。

    心の中では疑問をもっても、監視され言論統制されているなか、息が詰まるような毎日を送っている民衆。

    その根底には貧困の問題がある。戦争と貧困はいつも表裏一体。いまの日本も政府のお題目とは裏腹に庶民の暮らしは一向に楽にならない

    東京演劇アンサンブルの特徴は、俳優たちが台詞を覚えて稽古するだけでなく、毎回、自身の問題としてテーマにじっくり向き合い思考を重ねていること。

    今回も福島の原発に関する裁判や沖縄の辺野古やヘイト・スピーチなど市民の視点で取材してパンフレットにリポートを載せている。

    日本とドイツが戦争に向かった経緯や戦後処理などについても、大学の研究者による詳しい解説が年表と共に書かれていて充実した内容になっている。

    独裁的な権力者によって国家が戦争へと突き進もうとするとき、市民の立場で戦争を止めるにはどうしたらいいのか焦燥感にとらわれた。

    ネタバレBOX

    「新聞には本当のことが書かれていない」という台詞が日々、痛感していることだけに一番印象に残った。

    街中では親衛隊の目が光っていて、何気ない会話からどうやって反体制的な市民を罠にはめ、あぶりだすかが描かれる。

    市民同士も監視し合う。
    (日本でも戦時中隣組制度があったが、最近、「隣組制度を復活すべき」と言う政治家が出てきたのは驚く)。

    家の中だけでも本音で語り合いたいが、ナチスの教育をうけているので幼い我が子さえ、密告されるのではと疑わねばならない両親。

    田舎へ行けば、おなか一杯食べられるのではと夢見る娘を突き放すようにみつめる現実を知る母親。

    愛し合っていても、ユダヤ人である妻は夫の身を案じて国を去らねばならない。

    「国のために命を捧げよ」と教育される少年たち。

    まったく戦時中の日本と変わらぬ抑圧された生活がそこにはある。

    オムニバス形式で14場で構成され、俳優は複数の役を演じているが、各場面のつながりを感じさせるところとそうでないところがあるので、

    ややスッキリしない思いが残る。

    台詞では役名があるがパンフには職名しか書いていないので、できれば役名も併記してほしかった。

    終幕、群衆の間に流れる長い白い布はさまざまに連想できるが、私には死者の魂のように書案じられた。

    白い布は小さく丸められ、みどりごのように女性の胸に抱かれるが、その布が繭のように女性の体を覆って劇は終わる。

    このラストをどう解釈すべきか私にはよくわからなかった。




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    2015/03/16 21:19

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