みえない雲 公演情報 ミナモザ「みえない雲」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    美しい照明に浮かび上がる怒り
    原発事故の責任と、健忘症で一過性の国民、そして何より、
    起こったことをどんどん忘れていく自分自身にも、
    これでよいのかと厳しく問いかける作品。
    作者の分身である女性を狂言回しに、ドイツで書かれた
    架空の原発事故の物語を再現し現代日本とリンクさせる脚本がうまい。
    息をのむほど美しい照明が素晴らしく、時空を自由に行き来する構成が映える。
    人形を使った演出は、そのサイズ感と複数人数による台詞により効果絶大。
    終盤ストレートすぎるかと思うほどに作者の怒りが前面に出るが
    これを言わずにいられない強烈で真摯な思いが、愚直なだけにじかに伝わってくる。
    ドイツ人の少女を演じた上白石萌音さん、過酷な現実を受入れ
    もがきながら成長していく姿が初々しく力強い。
    彼女に厳しく接しながらも、結局は一番応援している叔母を演じた大原研二さん、
    意外なキャスティングだが、キャラが立って細やか、最後の泣かせ方は一級品。

    ネタバレBOX

    作者自身が原作との出会いを語る場面から始まる。
    ドイツを舞台に架空の原発事故を描いた本「みえない雲」と出会った作者(陽月華)は
    ついにその原作者に会いに行こうと決意する。

    「みえない雲」はチェルノブイリ以後にドイツで書かれた架空の原発事故の物語だが
    社会の混乱と人々の反応のリアルな描写ゆえに、3.11を経験した私たちには
    まるでドキュメンタリーを観るような趣がある。
    14歳のヤンナベルタが両親と離ればなれになり、避難の途中で幼い弟を亡くし、
    やがて両親の死を受入れ、髪が抜けた頭を隠しながら生きる人生はあまりに過酷だ。
    心を寄せていた青年は、社会から受ける理不尽な差別に絶望して自殺しまう。
    ヤンナベルタは、後に弟の遺体を埋めた被爆地を再び訪れる。
    上白石さんがアカペラで歌う声の美しさが忘れられない。

    ラスト、作者自身と社会への怒りがストレートに表現されたが
    あの“素の部分”はなくても良かったと思う。
    原作には、否応なく日本の現実と重なる十分すぎるほどのリアリティと力がある。
    ただ、作者が“これだけは言わずにいられない”という気持ちが
    原動力となった作品であることは確かであり
    その愚直までにまっすぐな姿勢を敢えて評価したい。
    こういう気持ちを失うことこそが、私たちの一番の欠点であるから。





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    2014/12/12 04:32

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