MOTION&CONTROL 公演情報 サスペンデッズ「MOTION&CONTROL」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    使い捨てられない
    新国立劇場の企画「シリーズ・同時代」の一本として、『鳥瞰図』を観たのがついこの間。あの、笑顔が印象的な舞台が忘れられなくて、この公演を楽しみにしていたのだけれど、結果、やっぱり、良かった。

    80分という上演時間や、劇場のサイズ、話の規模の小ささも含めて、全体的にこじんまりしている印象だけれど、それが物足りないと決めつけるわけにはいかない。というか、サスペンデッズという劇団は、「こじんまり」を受け入れることから始まるのかな、と思った。

    ネタバレBOX

    「こじんまり」ということは、多くを求めないことかもしれない。「老成」と評される早船聡さんだけれど、でもそれは、あきらめや、開き直りともちがう気がする。信頼、かな、と思った。観るものに負担をかけない、優しさかな、とも思った。

    亡くなった先輩の葬儀に、地方へ向かう列車の中の二人が、大学の映画サークル時代を振り返る。別に、語り合ったりはしていない様子。ただ、ぼんやりと、個別に思い出す。狭い舞台が、現在の列車の中と、過去の部室を行ったり来たりする。

    基本的なストーリーは、二人の、夢と、ひとりの女性をめぐる三角関係の、苦い挫折という、めずらしくないもの。それでも、不思議な、独自の味わいがある。なんだか、観終わったあとで、じわじわと感じる、なにかがあるのだけれど、それは、主役や脇役といった区別のない感じとともに、出てくるひとが、全員、しっかりとした背景を背負って、自分の人生を生きていることからくるという気がする。なんというか、使い捨てられる人物が、いない。

    人だけでなくて、せりふにも、無駄なものがないかもしれない。ひとつの言葉は、次の場面に、じっくりと、厚みを加える。だから、僕らのほうも、自然と、しっかりと観ようとする、ということが、あるかもしれない。なんだか、信頼されているような、嬉しい気持ちになって、身を乗り出して、集中してしまう。

    信頼は、世界にも及ぶ、という気がする。亡くなった先輩は、ただの卒業の遅れた大学生かと思ったら、実は、なんと、元戦場カメラマンで、愛する人を死なせたという壮絶な過去を持っている人だということが分かって、平凡な世界が突然、一瞬、裏返る。彼は、映画や大学といった「虚構」のなかに逃避したいと言い切りながらも、最後は、実家のりんご園を継いで(次男坊といっていたから、継いではいないのかな?)、日常の生活の中で死んで行く。「戦場で死ななくて、よかったよな」という言葉が、後から、ひびく。

    僕は、この先輩が、よくわからない。無茶な設定に、そりゃないだろうという気持ちもある。でも、白州本樹さんという役者の力もあるかもしれないけれど、舞台を観終わって、広げられた物語が、きちんと折り畳まれて、スッと静かに消えていった感じがしたのに、この先輩の不思議な佇まいが、しこりのように残っていて、それがなんだか、嬉しいのだ。

    この作品には、大きな感動だとか、深いテーマだとか、そういうものは、ないかもしれない。別に、涙も出ない。そのうち、話のほとんどを忘れると思うけれど、それでも、この、なんともいえないしこりを通じて、心の中に、生き生きとうごめく部分を、残していってくれたと感じる。「観た」という情報に終わる作品が多い中で、この作品は、確かに、笑いとともに、身体に残った。

    0

    2008/08/20 10:52

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大