アンドロイド版『変身』 公演情報 青年団「アンドロイド版『変身』」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    評価が難しい、、、
    まず、私はアンドロイド演劇の可能性を期待して観に行った。(初見)
    そういう意味では、あまり面白くはなかった。

    ただ、普通の芝居として極めてよくできていて、そこには大満足。

    でも、それは文学的な意味であって、演劇的な部分ではない。
    さらに、非物語的な作風から出発した平田オリザ氏が物語に回帰するのが良いのかも微妙。

    また、この作品では、現代の社会状況への痛烈な問いかけが孕まれている。
    その点も、とても素晴らしいと思う反面、ここまで前面にその批評性(メッセージ性ともいえるくらい)が出てくるのは、彼の今までの作風からして良いのだろうかとも思ってしまった。
    ただ、こちらに関しては、今の社会状況に演劇が対峙するのには、作風云々ではなく、これくらい露骨に批評性を出していくしかないと思ったのかもしれない。それならば、素晴らしいともいえる。

    最後まで<ネタバレ>を書いて、振り返ると、
    平田オリザ氏が作ったと思うから、今までの彼の作風と比較して引っかかる部分が多いだけで、新しい作家の作品だと言われたら、もっと素直に賞賛できる気がする。つまりは、素晴らしい作品だったということだ。

    ネタバレBOX

    <アンドロイド演劇について>

    技術的な意味ではなく、演劇的虚構として、演劇の構造内に入れば、もっと人間のように見えるのかと思っていたが、正直、ロボットにしか見えなかった。ただ、今回はロボットの役だったので、それが正解なのかもしれないが。

    また、やはりロボットがいると、意識がロボットにばかり行ってしまうし、常に空間が異化され続けているため、生身の役者の演技に意識がいかない。
    意識して役者さんの演技を見ると、細かい心の揺れのような部分まで丁寧に演じているのにも関わらずである。(素晴らしい演技だった。)
    勿論、この構造を面白いということもできるし、まさにこれこそが、作品内のテーマとシンクロしているという観方もできる。
    だが、それはあくまで理屈で意味づけすればというだけで、観劇時の実感としては、あまり有効に機能していたとは思えなかった。

    <物語ほかについて>

    不条理演劇の多くがそうであるように、ザムザがロボットであることによって、これは戦争などで負傷した人間のメタファーなのではないか、または、人間がロボット化されていることのメタファーなのではないかと、寓意的に読み取ろうと意識が向いていった。そこには、この物語(2040年)の背景として戦争問題や労働問題などが語られていることも影響している。
    だが、それは見事に裏切られ、やはりメタファーではなく、「ロボットである」ということで話は進む。
    そこに、この家に下宿することになった医師が登場し、家族を精神がイカレタ者かのように扱うことで、もしかしたら集団で気がおかしくなったのかもしれないという疑念も挟まれる(どちらが正気でどちらが狂気かという)。だが、あくまで物語の主役はこの一家なので、物語としては、むしろこの医師の方が狭量であるかのうように話は進む。
    そこから、「人間を人間と位置付けるものは何か」ということを、医学的に分析しながら検証していく。例えば、手や足はなくても人間である、、、、近年では、医療機器の発達によって、臓器がなくても人間として機能する、、、すると最後には脳が人間の存在根拠となる。ということは、脳以外は全てロボットでも人間になる。では、植物人間は?また、人工知能で生身の肉体を持っていたら、それは人間か?もしそうなら、脳が根拠ではなくなる。では、グレゴワール・ザムザは?、、、、という具合。

    その後、人間と非人間との境界線の問題は、社会的文脈としても提起される。国籍のない人間は人間なのかなど。詳述はしないが、様々な視点から人間が「人間」であることの意味が問われる。

    そこに、近未来の設定だけあって、今の社会状況がより悪い方向に進んだらという現実的な問題が重ねられている。
    それは、日本にとっても切実であるし、世界的に見ても切実な問題。本当に危機的になってきた状況が重ねられている。
    簡単に言えば、戦争のことだ。人は理由もないのに相手を憎み、殺すということなど。人間こそが残虐であり、人間こそが非人間的だというパラドックスも内包されている。
    戦争の問題に労働格差の問題が絡み、貧困を脱するために、戦争に行くということも語られる。まさに、これはアメリカ型の社会の特徴。徴兵などしなくても、戦争志願者が無くならないのは、この構造のためだ。日本もそうなりつつある。
    フランスの設定ではあるが、日本と近隣諸国との関係のようにも見え、またウクライナのことや、イスラム国のことなども頭をよぎる。

    ともあれ、この物語展開の巧妙さとそこに込められた批評性は凄いものがある。
    平田オリザ氏が作ったと思うから、今までの彼の作風と比較して引っかかっているだけで、たぶん新しい作家の作品だと言われたら、もっと素直に賞賛できる気がする。

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    2014/10/11 23:52

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