神戸原論と「地のDNA」
腹筋善之介と会ったことがある。
「会った」と記したが正確には「遭った」かもしれない。
下北沢の駅前劇場で開演を待つ、私。すると隣にいた男性客が「ちょっとだけ椅子をズラして頂いてもいいですか?デカい男が三人並んでいるので…まあ、あんまり動かすと怒られちゃうので、ちょっとだけ」
この男性こそ腹筋善之介氏である。
「観劇圏」を確保したいけど、「制作サイド」にも配慮しなければならない。「あんまり動かすと怒られちゃう」の一言が舞台人だと思った。
今回、腹筋氏が川崎を開催地に催す『キンフェス2014』。
1996年、神戸市在住だった腹筋氏が阪神大震災を被災した際、当時住んでいたアパートの向かい「洋館」を臨時避難所としたらしい。所有者である大家さんがアパート居住者に開放した空間だった。
腹筋氏は翌朝、実家のある大阪へ自転車帰郷したそうだが、「時間は一定ではない」、極めて特殊な「場」が本作を上演するキッカケとなった。
実は この噺、前説にすぎない。新書における「はじめに」に等しいボリューム。まるで舞台全編を統括する案内人だ。
源平の時、終戦後の時、そして阪神大震災の時、それぞれの時代に「動き」がある。
震災後の「ゆっくりとした空間」が、前時代の若者を鮮やかに躍動させるためである。
別の舞台を観劇した腹筋氏が私に放ったメッセージは「動かすと怒られちゃう」だった。
『キンフェス2014』はどうか。
この要望を逆回転するベルトコンベアー、すなわち それ(腹筋氏)は工場長であった。