コンタクト 公演情報 水素74%「コンタクト」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    終演後、アトリエ春風舎を出るときに
    「今の芝居、面白かったですね」とかなんとか声を掛け、「出会い(ナンパ)」のきっかけを作ってくれた神作品だと思った。

    ……ウソです。

    ネタバレBOX

    人と出会うこと、接することは、意外と難しいかもしれない、
    ということが底辺に流れている。
    いやいや、そんなに思うほど難しくない、と思っている人もいる。

    田中と井上は、ラウンドワンの入口で2時間以上もナンパをしようと立っている。
    まだ誰にも声すら掛けられていない。
    田中はナンパが得意だと後輩の井上に豪語していたのだろう。
    しかし、ナンパについてはまったくの無能な男である(それ以外の生活でも推して知るべしなのだが)。

    客入れから舞台にただ立ち尽くす彼らは、実はそういう2人だったのだと納得。
    なんとなく客電が暗くなりつつ、なんとなく会話が始まり緩く物語に入っていく。

    全編、ほぼ2人(ずつ)芝居と言っていい。
    会話が成り立つ最小限の人数だ。
    ナンパをしている田中と井上、通りがかった人妻とその女友だち、そして、未来から来た男女。

    面白いのはそれら2人の関係に「上下」があることだ。
    田中は井上のバイト先での先輩であり、井上にとってナンパの先生だと思っている。
    人妻・増美と友人・直子は、直子が増美の保護者的な立場にある。
    未来から来た男女は、女がダメ男に惚れてしまっている。
    また、2人のうち、どちらかが「(より)ダメな人」なのだ。
    物語が進むうち、「上下」の関係もグラグラしてくる。
    井上が田中に「歩いて帰れ」と言うエピソードは好きだ。

    それぞれの(2人だけの)世界同士がぶつかり合い、重なり合い、異次元とも言える会話が生まれる。
    それを際立てたのが、「SF」仕立てである。
    数十年ぐらいの近未来から来たという2人の男女は、男の母親が父親となる男と、その時間、その場所でナンパによって出会うのを阻止しに来たのだ。

    全編、クスクス笑いが起き、ときには爆笑となる、コメディ的な作品でもある。

    いわゆる現代口語劇であり、会話の絡み方がとてもいい。
    「リアル」とは違う「ありそう感」のある会話が続く。
    しかし、どこかふわふわして足元は緩い。
    それぞれが深く考えているわけでもない。

    井上はそれほど好みでない子(直子)に、押し切られる形でホテルに行くのだが、そのあともそれほど乗り気ではなかったのだけど、流れで、その気になっていき、付き合う感じになるという、そういう感じがなかなか。

    ストーリー的には、観客には、未来から来た男の母親がナンパによって男と出会って、自分を生んだということが作り話であることがわかる。
    ナンパを阻止したから、自分は生まれないので、消えてしまうと思っているのだが、当然、もとのエピソードがウソなので、消えるわけがない。
    会話にしか出てこない、人妻の夫「マーくん」のダメさが未来から来た男・武史に重なる。
    ダメの連鎖。

    日本は数十年先には結構危険な国になっているらしい。
    まあ、毎日パチンコをしてその金を恋人にせびるダメ男・武史からの情報なので、武史から見た世界観だから、アテにはならないのだが。
    人と接するのが億劫になった日本人たちが、ダメな国にしてしまったのかもしれない。
    確かに、そういうことは、ありそうかもしれない。リアルが辛い人たちの台頭で。

    結局、全員がなんとなくモヤモヤした感じで終わるというのがいい。
    ラストも田中と井上が劇場の出入口から去って行くという、雰囲気もこの舞台にマッチしていた。
    なんとなく始まり、なんとなく終わる、またそれぞれの「閉じられた世界」へ戻っていくようだ。

    井上を演じた田村健太郎さんは、ややぐだぐだ喋りをしています的な感じ(演劇で見かけるタイプというか)なのだが、それによって軽くメリハリがあるので、会話に弾みが出た。
    対する田中を演じる用松亮さんの、ダメっぷりがいい。じわじわくる。

    武史を演じた植田崇幸さんのダメっぷりも、凄くいい。自己嫌悪に陥りながらのダメっぷり。そして、その恋人・早苗を演じた後藤ひかりさんも、いかにもダメ男を好きになりそうなキャラが満開で良かった。

    武史の母親で増美の直子を演じた鄭亜美さんは、独特のトーンがあり、何を考えているのか、どう行動するのかが読めない感じがよかったし、その友人役の島田桃依さんは、増美のような、そういう人を放っておけない感がよく出つつ、井上との関係を詰めていく貪欲さが面白い。
    ただ1人、「普通」な人・ラウンドワンの店員を演じた永山百里恵さんは、他の共演者全部とのトーンを変えなくてはならないので、大変だったのではないだろうか。

    で、田中と井上のナンパ成功率は5割以上なので(井上は成功、田中は食事まで行けた)、演劇終了で、今観た演劇という絶好の話のきっかけと、話題があるという中、実際にコンタクト(ナンパ)してみようと思った観客はいたのであろうか?

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    2014/09/20 06:02

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