満足度★★★★
言及することの価値
途中入場(無念)。だが即効引き込まれて最後まで持って行かれた。
原発事故を巡るあれこれは「生活」の問題として今も進行形であり、その事に多少なりとも考えを寄せる自分なればこそ、であったかも知れぬが、芝居は全く硬くない。タッチはどちらかと言えばコメディである。軽快さ、というより日常性と言ったほうが適切か。
話の舞台は放射能から避難する子どもたちを受け入れる保養施設(民間の、人々のカンパで運営されてるらしい)。ここの女性所長以下、スタッフ、ボランティア、利用者(子供たち)の親族、地元の支援者らしき人等による、恋愛沙汰有り、笑い有りのドラマ。だが、日常感たっぷりに語られる会話の端々に遠慮なく挿入される、放射能汚染をめぐってのあれこれ。それに向き合って生きざるを得ない場所で、もがき立ち上がろうとする人間の弱さ美しさ醜さ清々しさが2時間という時間に詰め込まれていた。(※全体の1/3強を観そびれたので「詰め込まれて」という印象表現は当ってないかも知れないが)
とにかくこのネガティブな題材を、問題性をきっちり言及しつつ爽やかなラストに仕上げ、しかも話を終えて一件落着でもなく課題はしっかり刻み込んで幕を閉じる事ができたのを、私は奇跡の賜物ように眺めた。
最後に希望と言えるものを浅薄さに堕さずに語らせるには、そこへ至るプロセスでごまかしの無い事実・現実が描かれなければならない。
現実を共有されない事こそ震災以来の社会の罪(広い意味でのネグレクト)であり、この芝居は「言及すること」により今渦中にある人達への声かけとなっている。その言葉となり得る言葉を作者は探り、紡ぎ出した、この事を真摯に評価したい。
(見逃した分を引いて4点)