満足度★★★
忍び寄る戦争の予感
表面的には劇団の日常を描きながら、メタファーが散りばめられていて、考えさせられる作品でした。
日中韓共同製作公演のツアーを終えて地元で公演中の地方の劇団という実際の弘前劇場自体を思わせる設定で、スタッフ楽屋で交される程良くユーモアがある淡々とした会話のやりとりの内に、高齢化社会や中国・韓国との関係といった社会的な不安が浮かび上がる物語でした。
登場人物としての黒子とは別に、登場人物達には見えていない設定の黒子達が所々で現れて佇んだりうろついたりする姿が、政治的な諸問題を見えているのに見えなていない事として着々と戦争へ向けて事態が進んでいることを示唆している様で不気味でした。
小道具として用いられたギターに反戦運動のフォークギターのイメージと楽器→道具→武器のイメージが重ね合わされていたのが印象的でした。
終盤で引用されたアルチュール・ランボーが戦死した若者を描いた詩『谷間に眠る者』は、テーマには則していたものの、唐突な感じがありました。
リアルに作られた楽屋のセットの中で中央のテーブルだけがいびつな形でかつ縁が赤くて、そこだけ非現実的な表現となっていましたが、その意図が掴めず違和感のみが残りました。
考えさせられる内容で見応えがありましたが、公式サイトに書かれていたあらすじとは異なる話となっていたのが少々残念に思いました。