出発 公演情報 松竹「出発」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    面倒臭い家族ほど愛おしい
     「家族ってホント煩わしい。
    けどそれを含めて家族って愛おしい」と
    再認識させてくれた演劇だった。
     
     舞台は、どこにでもあるような
    庶民的な家庭の「岡山家」。
    直接話せばいいものを、家族が居間に集まり
    スマホでLINEを通じ会話をする今時の一家だ。
    ただ一人、父の八太郎(石丸謙二郎)だけが
    スマホを使えず、団欒に入れない。
    その孤独感も手伝って、彼は家族に内緒で旅行に
    出かけたが、帰るきっかけを失い、家に戻れない。
    父が帰らない!と大騒ぎする岡山家の人々。
     次から次へと繰り広げられるテンヤワンヤが
    かなり笑える。まさに「喜劇」と呼ぶに
    相応しいほどだ。真剣な登場人物達にとっては
    悲劇だが、その方が面白さが増幅する。
    家族っていると安心するけど、「ああしろ」
    「こうしろ」とやる事なす事に一々文句を
    つけられ面倒臭いと思う時もある。
    岡山家全員が個性が強いので
    その面倒臭さが強調され、観客も凄く共感できると
    ともに、笑いも倍増される。それゆえに、
    観る者はますます岡山家の人々を好きになる。
    自分の家族のように。
     やがて、父の不在が家族に思いもよらない結果を
    もたらす。ミュージシャンをやりながら好き勝手
    に生きてきた長男・一郎(戸塚祥太)は、
    父の代わりに家族を引っ張っていこうと決意。
    一郎の妻で、普段は気立てが良いがキレると下品な
    関西弁でまくしたてる明子(村川絵梨)に妊娠が判明。
    ちゃんと子育てできるか不安に思っている彼女を
    一郎は全力で励ます。引き篭もりがちな次男・六助
    (冨浦智嗣)も、自立を決意。沖縄弁まるだしで
    沖縄舞踊がうまい薄幸な恋人・みどり
    (蔵下穂波)との結婚を決心する。
     八太郎の妻・すみ子(芳本美代子)は、夫の
    代わりに家を支えていかなくてはと
    張り切っていたが、子供達の成長を目にし、
    嬉しさを隠しきれない。
     はちゃめちゃながら、一郎達が成長する姿を見て、
    観客は自らの家族との日頃のすったもんだを彼らが
    吹き飛ばしてくれているかのような気持ちになってくる。
     まとまりかけた岡山家を、明子の父・留吉
    (佐藤蛾次郎)がかき乱す場面も面白い。
     
     戸塚祥太は後述するとして
     石丸謙二郎演じる八太郎のダメ親父っぷりの安定感。
     芳本美代子や村川絵梨のカッコよさに惚れた。
     蔵下穂波のみどりは、沖縄弁といい不器用な
    癒し系の役所といい、ドラマ「あまちゃん」の
    喜屋武エレンそのもの。拙者含めあまちゃんファンなら
    喜ぶ。
     何かと突っ込まれる六助役に冨浦智嗣は見事に
    はまっていた。
     そして佐藤蛾次郎の破壊力。
     役者が全て個性派なのだ。 

     父がいなくなり、一郎は岡山家の「父親」という
    役割を継承した。だが、それは八太郎のコピーでは
    ない。一郎独自のアレンジを加えたものだ。
    明子もまた、すみ子から「母親」役を受け継いだ。
    明子らしさをふんだんに盛り込みながら。
     果たして、八太郎は岡山家に戻る事が出来るのか?
     
     笑いの構成は「くだらない事を徹底して真剣にやる」と
    いうもの。くだらなくて、かつ有り得ないような
    大げさな設定が出てきて、それを出演者が真剣な
    眼差しで話を盛りに盛っていき、あまりの真剣さに
    観客に「本当かな」と思わせた後に「んな訳ないだろ」と
    落とすという構図が多かった。喜劇の王道だ。
     笑いのネタは、LINEや「アナと雪の女王」、
    脱法ハーブ(鑑賞翌日に「危険ドラッグ」と改名)
    といった今話題になっているものもあった。
    同時に、布施明、藤山寛美、黒電話等、
    戸塚君を目当てに来ているであろう
    90%以上の若い女性にはピンと来ない、
    古いものもあった。
    (残り9%程の人生経験豊富そうな女性なら
    分かるだろうが。残り1%程は男性客)

     でも、この古いネタや喜劇の王道的編成はこれはこれで
    良いと思った。
     ジャニーズのコンサートでは、
    かなり年上の先輩の若い頃の曲を若い後輩達が
    歌っている姿をよく見かける。「古くても良いものは
    伝承させていく」。これがジャニーズの伝統なら、
    コンサートだけではなく、お芝居にだってその伝統は
    適用されて当然なのだろう。
     演出は、少年隊の錦織一清氏。
     原作者のつかこうへい氏に師事。亡くなった師匠の
    原作を、錦織氏独自の色に染め上げ引き継いだ。
    それを今、戸塚君をはじめ若い役者達に継承させようと
    考えているのだろう。
    舞台上の父親役は石丸さんだが、影の父親役は
    錦織氏で、祖父はつか氏だと言える。
    戸塚君が持つ明るいオーラや器用さは若い頃の錦織氏に
    似てるなあという印象を持ちつつ、戸塚君が持つ
    真っ直ぐさや力強さは彼独特なものを感じた。
     今後の錦織氏演出のつか作品と、戸塚君を筆頭に
    若い役者達の演技に大いなる可能性を感じた
    お芝居だった。

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    2014/07/25 00:18

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