ヒネミの商人 公演情報 遊園地再生事業団「ヒネミの商人」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    21年ぶりに観劇。若手演劇人必見!
     本作が再演されると聞き、飽き性な宮沢章夫のこと、ガラッと趣向を変えてくるかと思いきや、意外や脚本・演出とも大きくは変わっておらず、お蔭で、「こんなギャグ、あったあった(笑)」などと懐かしさに酔い痴れながらこの大傑作を観るという幸せな105分を過ごすことが出来ました。
     初演にも出ていた中村ゆうじと宮川賢が同じ配役で出ているほかは全て新キャストというこの座組で、かの大傑作をその妙味を損なうことなく再現したのは立派。
     それどころか、初演には当時の小劇場界屈指のコメディエンヌ・ふせえりが出ていたこともあり、コメディとしての出来映えは初演に劣るものの、“カネにまつわる怪異譚”としての完成度は再演のほうがむしろ勝っているくらい。

    数々の“小さな不思議”が時に笑いを生み、時に背筋をゾクリとさせるとても宮沢作品らしいこの傑作を、可能ならば演劇を始めて間もない若い人達に観て欲しい。
    というのは、最近の若手演劇人の作る劇には、宮沢章夫の影響がほとんど感じられないからだ。
    それは無理からぬことでもあって、ここ10年ほどの宮沢章夫はスタイルにばかりこだわった分かりづらい劇を作り続け、客を楽しませることを第一義とする真っ当な劇を作ってこなかった。
    なればこそ、最近の若手演劇人は宮沢章夫の芝居など観たことがなく、影響を受けようにも受けようがなかったのだ。
    そのため、本谷有希子くらいの世代を最後に、宮沢章夫の影響を大なり小なり感じさせる演劇人は出てきておらず、宮沢イズムは今世紀の半ばを待たずに死に絶えようとしている。
    これはまずい。
    もろに影響を受けてもいいし、ピンとこずにスルーしてもかまわないので、若き演劇人は何はさておき本作を観るべき。そして宮沢章夫という偉大な演劇人の名前を頭に刻み込むべきだ。
    自分で書いておきながら「神格化が過ぎるのでは?」との疑念が頭をよぎりもするが、いちど宮沢章夫を通過してから演劇を創作するのと、宮沢章夫をくぐらずに作劇にあたるのでは、出来上がる劇の水準が大きく違ってくるはず。
    宮沢章夫という人はそれくらい凄いのだ。
    あまたいる演劇界の後輩たちにもっともっと影響を与えるためにも、宮沢章夫は本作のように実があって面白い作品をまた作り始めるべきである。

    劇の感想に戻ると、役者ではノゾエ征爾、宮川賢、そして舞台となる印刷店の奥さん・美智を演じた笠木泉が印象に残った。
    美智の夫と仲のいい写真店店主を演じた宮川賢は、あれから約20年の時を経て枯れた味わいが加わり、初演時よりもずっとずっと“商店街のオヤジ”っぽくなっていて劇世界により馴染んでいたし、笠木泉は初演で美智を演じたふせえり同様に快活で明るく、ふせえりにない品と気高さをも感じさせ、当方は憧れの眼差しでその姿を追い続けた次第。スラリとした美しい立ち姿とよく通る澄んだ声にも魅了された。

    ノゾエ征爾についてはネタバレにて。

    ネタバレBOX

    ノゾエが演じるのは、日根水(ひねみ)という田舎町にできた大銀行の出張所に中央から転勤してきて、預金や借金を勧めるため町の商店を回っている営業マン。
    コミカルな中盤までは営業にきた印刷店で次々に物を失くしてパニクる様を持ち前のトボけた演技で面白おかしく表現して笑いを誘うが、終盤に至り、中村ゆうじ演じる印刷店主が紙幣の偽造をしていると知ってからはショックのあまり正気を失い廃人と化していく。
    この狂いゆく演技がとても真に迫っており、ノゾエのこの繊細な演技にも支えられ、今回の再演は同じ役を山崎一が演じた初演よりもずっとずっと見応えある一作に仕上がっていた。

    ここまで褒めておきながら星を4つにとどめたのは、先述の通り、本作をコメディとして観た場合、出来が初演よりも劣るため。
    初演では大ウケしていた「メランコリー」や「ウルトラ」にまつわるやり取りが“ややウケ”に終わっていたのをはじめ、初演で湧いたシーンがさほどウケていなかったのは、再演では笑いよりも怪異性に重きを置いたせいか?
    なんにせよ、それらのシーンが爆笑を取ったところで劇の大勢に影響はないはずなので、それらのシーンもちゃんと笑えるように演出して欲しかった。

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    2014/03/25 22:46

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