新しい等高線 公演情報 ユニークポイント「新しい等高線」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    地図屋の抵抗
    東京にある地図会社の、昭和15年から終戦の20年夏までの5年間を描いた作品。
    戦争中、国力を示す地図は国策の名の下、いとも簡単に書き変えを命じられた。
    ユニークポイントらしい史実に基づいたストーリーに市井の人々のエピソードが絡む。
    そのエピソードのバランスが、観ている私の興味と微妙にずれているように感じた。
    私の知りたい事はひと言の説明で終わってしまい、
    逆に会話のテンポが滞るように感じる場面があった。
    時代とリンクした説得力あるテーマの選択はまさにユニークで新鮮。

    ネタバレBOX

    「色彩堂」は先代から続いた地図会社である。
    社長(佐藤拓之)始め先代の頃から仕える森田(植村朝弘)ら社員の目下の悩みは
    国の指導で軍需工場を“公園”とするなど地図を書き換えなければならないことだ。
    さらに全国の地図会社は廃業届を提出して、政府のコントロールの下
    一つの組織に統合されることになる。
    戦局の変化に伴って市民の暮らしも否応なく変わって行く。
    軍需景気、満州、特高、疎開、そしてヒロシマに原爆が落ちて終戦へと向かう中
    地図屋の秘めた抵抗が初めてことばにされる…。

    社員3人が皆住み込みで働く会社の雰囲気が温かい。
    そこへ加わったお手伝いの純子(水田由佳)が
    素直でよく働くが、ことばを発しないという設定が象徴的だ。
    どうやら東北なまりを咎められたかして口を閉ざすようになったらしい純子は
    ここへ来てから文字を覚え、さらに地図を描く技術も身につける。
    「美しい等高線を描くので、戦争中僕が徹底的に教えたんだ」と
    社長はひと言で説明するが、私はその事情が知りたいと思った。
    自分に自信がなく無知で素朴な存在であった純子が
    “美しい等高線を描く”と判ったいきさつや、特殊な技術を習得していく成長の過程こそ
    その後の日本と重なるような気がする。

    冒頭純子が連れて来られた時の会話が少しもどかしく、なかなか始まらない感を覚える。
    特高に引っ張られた社員の事情も不明で(確かに特高は理由が無くてもやるのだろうが)
    彼が本当に不敬罪に当たるような行為をしたのかどうか
    私の見落としかもしれないが、それまでの彼の態度からして唐突な印象が残った。

    軍の命令により終戦直後の地図を作るため、社長と共にヒロシマへ行くことになった時
    思わずことばが口をついて出た純子に、社長が語りかける。
    「これからは自分の言葉で話せばいい」
    もはやどこからも規制されず、自立して自ら語り始める日本を象徴することばだ。
    終戦の半年前、社長と内務省官僚(平家和典)が本音で話す場面も印象的だ。
    地図屋の仕事に対する誇りと、関東大震災の時の哀しみをくり返すまいと言う
    悲痛な思いが吐露されて、地図の持つ別の意味を考えさせる。

    濃く熱く人情120%の森田を演じた植村朝弘さん、
    巧いしそのキャラもテンションも私は好きだが、見慣れるまで少々浮いていたかも。
    受ける社長が淡々として落ち着いた物腰だから余計そう見えてしまうのかもしれない。
    誰からも信頼され相談される、とても魅力的なキャラだけにもったいない気がする。

    ほとんど台詞の無い純子を演じた水田由佳さん、
    丁寧な表情と視線が良かったと思う。
    ひとつこれは脚本のことだけれど、終戦後の場面で違和感を覚えた。
    お手伝いさんが雇い主の前でテーブルに突っ伏して寝たりするだろうか。

    フライヤーも当日パンフも、等高線を思わせるストライプの色が美しい。
    年表と1場~5場を解り易く示したページも親切で嬉しい。

    「コントロール出来ないものをコントロールしたがる」政府の愚行が
    再びくり返されようとしている今、
    「物語は作るのではなく、発掘するもの」という作・演出の山田裕幸さんの姿勢が
    端的に表れた作品であり、その危機感を私も共有したいと思う。
    ヒロシマへ行った後、地図屋の戦後はどんなものになったのか、
    そして地図は、どのように時代を写して行ったのだろう。





    0

    2014/03/12 01:47

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大