エリカな人々 -この愛らしい、恥さらしな世代へ- 公演情報 東京マハロ「エリカな人々 -この愛らしい、恥さらしな世代へ-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    この国の体育会
     エリカと聞いて、ひょっとしたら、と思っていたら、矢張り神保町の喫茶、“エリカ”のことであった。自分は、小学校時代から古本屋街に通い、当時、隆盛だった「いもや」でてんぷら定食を食べ、古本屋の臭いを嗅ぎ、時に上野に足を延ばして美術館や科学技術館に通う生意気なガキ時代を過ごして以来、何度も神保町時代を過ごしている。編集者時代は無論のこと、ライターとして仕事をしていた時代、フランス語を学びに行っていた時期等々、様々な時期、縁のある町なので、もしや、と思ったのだ。小屋で配られたリーフレットに目を通すと、然り、あのエリカであった。確かに朝6時には開店していると。徹夜仕事開けに飲む珈琲はまた格別。暖かいストーブの焚かれたカウンター席に腰掛けて、余り話さないマスターの温和な表情を見ながら飲む珈琲は至福の時である。実は、弟さんが近くで矢張り喫茶店のマスターをなさっているので、自分は、両方の店に出入りしていた。
     ところで、実在のエリカとこの物語は無関係である。エリカの作りは舞台上のものと違うし、窓から外を走る人の姿が見える作りにはなっていない。興味のある方は神保町界隈をうろついて実際のエリカを発見なさるとよろしい。雰囲気のある良い店である。(念のため付け加えておく)

    ネタバレBOX

     本題に入ろう。高校球児の話である。基本的には15年後、松坂が、エースの噂を聞いて練習試合を申し込んで来、2年の時にはプロのスカウトが来るほどの大器、将来を嘱望されたエースを抱えた球児が溜まる、ちょっと大人びた神聖な世界、それが喫茶・エリカであった。練習試合の中で、エースは、味方の選手がフライを取りに来た際、突っ込んできた選手と衝突、大怪我を負うが、その選手に負担をかけまいと当日、動けず怪我も酷いものであったのだが、無理を押して翌日には、選手達の溜まり場であったエリカの窓から、自分のランニング姿が見えるように走り、医者にも行かなかった。結果、後遺症で野球は止めざるを得ず、学校も転校、皆と合わなくなって15年が過ぎた。15年後、エースと付き合っていた緑子は、彼の転校にも付き合い、その後結婚もしていたが高校時代の野球部部員に連絡をつけて来た。彼が亡くなったというのである。通夜の席でも詳細は語られない。集まった関係者は、自分達の置かれた現状を愚痴ったり、近況を知らせ合ったりして時を過ごすが、運動部の常として、先輩・後輩関係は、この国の特殊性を露骨に表して面白い。
     さて、当初露骨には、表されなかった、この国の人間関係の作り方の綻びや矛盾が、この狭い範囲の人間関係内の浮気問題や、香典の額の多寡、エースを球界から去らせることになった事故への各々の位置、対人関係に於ける人気・不人気等々の差から綻びを見せて行く。その果てに見えてきたものは、このような曖昧化が齎す結果であり、責任者の不在であり、それを誤魔化す為に行われる儀式であるが、儀式を行わなければ、八分に会ったであろう、この社会の歪な特徴である。
     エースは大津波に攫われて行方不明になっていた。後遺症で杖をつき、片足は殆ど麻痺していて神経も充分機能しないような状態であった。彼は、妻の目の前数メートルで津波に呑まれていったのだが、野球部の誰をも怨んでいなかった。それを含めて残された妻は、野球部の面々を呪っていたのである。
      

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    2014/02/28 02:33

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