満足度★★★
あえて「CD化」を提案する
この『ヴェニスの商人』を新しい執事の視点から叱責してみたい。
会場「イプセンスタジオ」であるが、TBSテレビ『SASUKE』のアトラクションのごとく急勾配に傾いている構造だ。熱演するキャストが見え隠れしてしまう。
観客はシーソーのように頭を揺らさなければならず、予選出場者さながらの神経戦である。
こうした「劇場構造」も、30センチほどの厚みをもつ「板」を設置すれば、ほどなく解決したのではないか。
次に、「衣装」である。
女性はヨーロッパ上流階級だが、男性はウォール街を歩くサラリーマンだった。
これも、万が一、彼らが『ヴェニスの商人』を外資系企業に置き換たなら理解する(そうしたモチーフかと勘違いさせた)が、どうやら彼らは古典劇の忠実な部下であった。
男性キャストにおける「衣装」に、より作品世界へ投影できるような史実性が欲しかったわけだ。
しかし、「劇場構造」と「衣装」は新入り執事にしてみると「埃」である。
その空間に、どんな紳士淑女が住まわれているのか、それが問題だ。
私は この舞台は ぜひCD化すべきだと思っている。
何も、「演技が気に食わない」「セットが地味」だという皮肉を提示したいわけではない。
彼らは、シェイクスピアが発揮した「叙事詩」を、10歳の少年にも噛み砕ける速さで観客に伝えていた。もちろん、「全然理解できなかった」観客がいることも事実だが、イギリス大作家の台詞が放ってやまない「面白味」を、絶妙なペースとともに展開した その忠実な部下を、私は否定できない。
「シェイクスピアって、偉人だ!」を再確認する旅だ。(格式は かなり低い)
それはまるで、500年前の「炭酸水」が開封され鳴り響く「プシュッ」…。20代らしい爽やかな鐘音である。