満足度★★★★★
強烈な身体と空間
ダンス公演では珍しい、大きな舞台美術をふんだんに活用して身体の美しさを増幅させて見せる、スタイリッシュで品のある色気が印象的なクオリティーの高い作品でした。
白い床の上で水の中を歩むような静かな動きの女性ソロから始まり、恋人を思わせる男性が摺り足で現れ、次第に女性と男性の分身の様にダンサーが増えて行き、はっきりしたストーリーはないものの、アイデンティティーの不確かさについてイメージが膨らむ、ドラマ性のある展開でした。
ハーフミラーで覆われた高さ3m程の9本の三角柱が照度のバランスによって鏡になったり向こう側が透けて見えたりして、非現実的で複雑な空間の拡がりが現れるのが素晴らしかったです。
最初は横一列に並べられていたのがダンサー達によって様々なフォーメーションに配置され、生身の肉体と鏡像が絡み合って幻想的な視覚効果を生み出していました。環状に配置し、その中で踊るシーンではダンサー達の姿が多重反射して何十人もが蠢く様に見えて圧巻でした。
しなるようなムーブメントを多く用いた振付が美しく、ポーズを取って静止する姿も格好良かったです。鏡が使われているもあってナルシスを想起させるものの、確かな技術があるので悪い意味でのナルシシズムには陥らず、表現として強度のあるものとなっていました。
最初から最後まで持続するオリジナルの音楽が作品の統一感を高めていて良かったです。コントラストがはっきりとした照明もダンサーと空間を鮮やかに照らし出していて印象的でした。