かもめ 公演情報 劇団東京乾電池「かもめ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    面白いなあ! 角替和枝さんの演出
    登場人物たちの造形は、どれも腑に落ちる。
    それによって、それぞれの人間関係がはっきりしてきて、実感できる『かもめ』になっていた。

    役者への愛情が感じられる。
    それに役者がうまく応えているのだ。

    角替和枝さんに、また演出してほしいと願う。

    ネタバレBOX

    東京乾電池って、不条理劇の印象が強い。別役実さんの戯曲をよく上演したりしているし、劇団付き作家の加藤一浩さんの作品も不条理劇だし。
    シェイクスピアのハムレットや真夏の夜の夢さえも、その不条理性にフォーカスされていたように感じていた。

    今回はまったく違う。
    角替和枝さんの演出がいいのだ。

    正直言って、東京乾電池の若手役者さんの多くは、とにかく早口で台詞を言わされたり、感情を押し殺されたりということもあって、あまり上手く感じられない。なんか可哀想。
    古株の役者さんたちは、雰囲気でとにかく押す。何が何でも観客を楽しませようと押してくる。
    そういうイメージがある。

    今回も役者のレベルには差が歴然としている。
    歴然としているのだけど、それがチャームポイントに見えてくるのだ。

    たぶん、不条理劇的な演出だった過去の作品の多くは、それを「笑い」に変換しようとしていたような感じがある。
    そして、不発だったことが多い。
    その手法は、相当上手くないと、つまり東京乾電池の古株の役者さんたちのレベルに達しないと発揮できないのだ。
    それをやらせていた。
    そして、演出が1人だけで大笑いしていた、という若手公演も見たことがある。

    今回は、役者への愛情が感じられる。
    それに役者がうまく応えている、と思った。

    丁寧に登場人物を深掘りして、くきっきりと「どういう人なのか」が見えるようにしてある。
    登場人物の1人ひとりが、どんな人で、自分の周囲にもいそうな人として存在しているのだ。

    これは演出の力にほかならない。

    トレープレフは、川崎勇人さんが演じていた。
    不器用そうな人で、演技もそんなにうまくないので、最初は笑いさえ起こっていた。
    しかし、懸命に演じるその姿が、ニーナへの気持ちの伝え方がぎこちなさに見えてきて、大女優アルカージナを母に持つことでの屈折さえも感じてくるようになる。
    よくありがちな、青白い文学青年のトレープレフよりは、もう少ししっかりと彼の像を結ぶことができるのだ。

    ニーナを演じるのは、松元夢子さん。彼女のニーナは、田舎娘、だけとキラキラしている。
    そこに「なるほど」と感じたのだ。
    田舎にいて美人で役者に憧れる少女ではなく、田舎にして輝いて見える娘、だからトリゴーリンはつい、ふらふらしてしまい、しかし都市に行ったらその輝きが失せてしまったので、捨ててしまった、ということなのだ、とまで思ってしまった。
    松元夢子さんの演じるニーナは、そういう魅力に溢れているのだ。
    そういう解釈のほうがすっきりする。今までそういうニーナは見たことがなかった。

    (少し横に逸れるが、東京乾電池の若手の中で唯一、気になっていたのが松元夢子さんだ。彼女の持っている雰囲気は、東京乾電池の型にはまった感じとは少し違っていた。今回のニーナの役はまさに彼女にぴったりだったと思う。キラキラした希望みたいなものが滲み出てきていて、さらに疲れ切った後半の姿もいいのだ)

    アルカージナ(宮田早苗さん)も、いかにも大女優然としていた。
    プライドの高さを見せていた。

    『かもめ』なんていう作品を上演すると、全員が大げさな雰囲気になっていたりするので、アルカージナの大女優さがイマイチ伝わってこないのだ。
    しかし、東京乾電池の『かもめ』では、特殊な大作家さんのトリゴーリンと、このアルカージナ以外は、普通のどこかにいそうな人たちとして描かれているので、アルカージナの大女優感が強調されてくる。

    その結果、息子であるトレープレフとの関係もくっきりしてくるし、他の登場人物との力関係もはっきりしてくる。

    こうした登場人物たちの造形は、どれも腑に落ちるものだった。

    トレープレフの劇中劇の演出もなかなかいい感じだった。
    ……トレープレフのふんどし姿に、ニーナの感情のない台詞……まさにこの劇中劇こそが東京乾電池の不条理劇だ、とまでは言わないが、1人、密かに笑ってしまった。

    また、演出的には、ストーリーが停滞するときには、ヤーコフや小間使い、料理人などが通り過ぎていくというのがうまい。
    しかも、それは舞台の中をまったく邪魔しないのだ。

    ただ、トレープレフがニーナとのことで絶望するシーンで流れる、タイガースの曲「色つきの女でいてくれよ」は、あまりと言えばあまりだ。直接的すぎて、やり過ぎだ。
    せっかくいい感じで進めてきた雰囲気を台無しにしてしまった、と感じた。

    あえて古い翻訳の『かもめ』を選択して上演していて、そこで狙ったのだろうけど、狙いすぎて、狙いがあからさまで、ここまでくるとカッコ悪く見えてしまう。

    まったく違う曲で突き抜けてしまったとしたら(例えば、蜷川さんが『ハムレット』で見せたこまどり姉妹ぐらい外連味で見せてくれたら)、「お!」と思ったかもしれないが、これは野暮すぎた。
    これがなかったら、★はもう1つ増えた。

    緞帳のように見える、段ボールで作ったセットがとてもいい。
    重さと軽さがある。
    トレープレフの舞台に使われた赤い幕も効果的。

    また角替和枝さんに演出してほしいと願う。

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    2014/01/12 07:59

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