満足度★★★★★
群を抜く力作
明治と昭和に挟まれた大正と言う時代をまさに象徴する存在としての大正天皇の生涯を描いて、秀逸な脚本。
作者の古川氏の、過去の歴史と時代への鋭い洞察力と着眼、的確な作品化には、演劇の持つ社会的役割という点でも、毎回敬服させられる。
大正天皇の伝記を読んで一番印象に残るのは、その責任感の強さと父である明治天皇への尊崇の念の強さであり、それは本作でも余すところなく描かれている。
ここでは描かれていないが、健康に恵まれない中、過酷な軍事教練にも率先垂範で耐え抜き、深夜も読書にいそしみ、軍事指導教官を尊敬して従順だったという。
太平洋戦争中に強化された「御真影」が最初にクローズアップされたのも大正時代であり、関東大震災や火災における校長や教師たちの死守するあまりの殉職を美談として形成されたのも大正時代である。
ために、病状が進み、身体の自由を失ってから、大正天皇の公式の場での撮影がなされなくなったのも関係している。
大正デモクラシーに代表される自由清新の息吹に満ちた大正天皇の御代が、先帝の示した理想と威厳、富国強兵の政策に抑圧されていく悲劇が戦後を生きる我々の胸に強く迫る。
民情視察の観点から自ら強く要望した大正天皇の「行幸」が、太平洋戦争を経て、人間宣言のもと、敗戦後の全国を行幸した昭和天皇の思いへと連なる。
昨今、ネットでは「昭和天皇は人間宣言すべきではなかった、日本の天皇は現人神である」という若い人の意見が当然のように書かれていたりするので、いったい、いまはいつの時代かと錯覚してしまう。
天皇の神格化についても考えさせられる内容だった。