ブラックジャックによろしく 公演情報 幸野ソロ「ブラックジャックによろしく」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    伊藤えみ 涙の演技!
    この作品の内容を聞いたときには、こんな強力な題材を演劇でどういう表現にするつもりなのか、正直なところかなりの不安を感じました。
    人間の生死を扱う作品は、それ自体の持つ重さのために多大な興味を観客に振りまきます。戦争もの、難病もの、ドクターもの果ては殺人事件もの・・その題材はTVにも映画にも溢れていて、しかもそれなりの視聴率を稼ぐようです。
    しかしこの作品には、それらと明らかに違っている点があります。そういう作品の殆どは、主人公が自分自身の困難を克服して行くストーリーなのですが、今回の作品はそこがは違っています。生命の危機にあるのは二人の未熟児で、当然彼らにセリフはありませし配役すらされていません。
    彼らの生命と障害を背負った人生の生殺与奪を握っているのは父親、母親、そして医師たちなのです。その他人の命を決める選択の葛藤が描かれるのが、この作品です。他人の生命と人生のありかたを自分の行動が決めてしまう。しかも躊躇している時間は与えられていない! その一方で、ナースという同じ空間にありながら自らは決定を許されない人達の苦悩も描かれています。

    実はこの作品は、私としては始めてのジャンルの演劇で、且つ自分自身が好きな種類のものではないと思っていたのですが、結局は、とても良い時間を待てたと思っています。

    ここまで書いたことは投稿タイトルとは一致しないのですが、ネタバレBOXに演技・演出について感じたことを書きたいと思います。

    ネタバレBOX

    原作が有名作品がであることもありストーリーは省略して、印象に残ったシーンについて書きます。

    まず、投稿タイトルにしたヒロイン伊藤さんの涙の演技について。
    彼女がいろいろなシチュエーションで見せてくれる表現は其々とても印象深いものなのですが、今回の作品ではこれまでは見たことがない様々な涙の表情を見せてくれました。
    作品の前半は未熟児を出産した母親としてのうつむいた虚ろな表情の場面が殆どなのですが、後半では様々な涙の表情を演じてくれました。自らが出産した双子の兄が死亡し、ダウン症の弟を生かすための手術を拒否する夫と離別してでも残った弟を育てる決心をしたときに、彼女が夕日を見ながら「命ってきれいね・・」というシーンはこの作品のクライマックスでもあるのですが、その場面は海辺の夕日の淡いオレンジ色の光に包まれて演じられ、伊藤さんは彼女の内面を美しく深い表現で見せてくれました。そのときの彼女の瞳はうっすらと濡れてはいましたが泣いる訳では泣く、それは命の持つ美しさとこれからの人生を見詰めている瞳でした。
    そしてこの後の場面で、彼女は夫との離別を医師に告げ手術を頼むのですが、医師に会って夫との離別を告げるときには伏せていた目を、手術を依頼する言葉のときには医師に向かって上げて行きます。その時、医師を見つめる彼女の瞳は、ゆっくりと涙で覆われていくのですが、最後まで決して涙を零すこと無くそのシーンを終えます。ここは前述の夕日のシーンを凌ぐ今回最高の名演だったと思います。 でも右側に立つ医師に向かって演じられた関係で、舞台上手の前方の客席からしか、それが見えなかったであろうことは大変残念です!
    実は、それとは別に実際に落涙するシーンもあるのですが、その時には彼女の右目から落ちたひと粒の涙が空中で照明に反射してキラっと強く輝いたのが私の強烈な印象に残っています。これは今回の彼女の涙の演技を象徴する出来事なのかなあ・・・と。

    一方、夫との回想シーンでも海辺の夕日の場面があったのですが、そちらは彼女としては珍しく(?)恋人との愛を確認しあうシーンとなっていました。こちらも良い感じでした!

    作品全体の演出で印象に残ったことも書きたいと思います。
    まず、開場時刻になって劇場に入っていったときに目に入る光景は烈です。そこから既に芝居が始まっている感じでした。舞台奥には未熟児が入る保育器が左右に置かれ、上からの青い光に照らされています。その奥の壁には妊中の胎児の動画が投影されているのですが、左側の胎児は右側の胎児よりかなり大きく、逆に右側の胎児は体は小さいのですが足を蹴るように動かしています。でも右側の胎児は動きません。この左右の2つの保育器は芝居が始まった後、左側には死亡する兄が、右側にはダウン症の弟が入れられるのですが、壁の動画はそれを象徴しているようでした。

    それから、今回の作品では照明と投影する動画が大変効果的かつ斬新に使われていました。照明の色は感情を表現していましたし、舞台には常時霧が漂っていて幻想的でありながら
    逆にシリアス感を持たせる上手い使い方です。

    兄が死亡した場面ではナース達が保育器を黒いベールで覆い、保育器をそのまま棺として葬送の場を演じます。先頭の二人のナースが棺を運び、それに続く他のナース達は其々の
    手に葬送のローソクを持って棺に続きます。その時はナース達によってアベ・マリアが厳かに歌われます。ユニゾンではなく合唱です。ナース役のなかに音大出のかたもいて葬送の場面の格調を歌のうえでもしっかり出していました。他にアメージンググレースが歌われる場面もあり重いシーンが続くなかでの歌は心を揺さぶります。

    他にも書きたいことは沢山あるのですが、既にかなり長くなってしまってますので、この辺にいたします。

    演じた方々と関係の方々には、今回、大変豊かな時間を持たせていた事を感謝いたします。

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    2013/12/25 00:01

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